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パンデミックや国際紛争を鑑みエネルギー安全保障の見直しを

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パンデミックや国際紛争を鑑みエネルギー安全保障の見直しを

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新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻は日本のエネルギー安全保障の見直しを提言

 2019年12月31日、中国湖北省武漢市で発生した病因不明の肺炎の報告以来、全世界に広がり猛威を奮っている新型コロナ ウイルスは未だ収束の気配を見せていない状況下、 2022年2月24日にはロシア軍がウクライナに侵攻を開始した。新型コロナウイルスが齎した世界経済の停滞、ロシア侵攻に対するロシア制裁としてのロシア産化石燃料の輸入停止などにより、世界の多くの国でエネルギー確保が課題になりつつある。ことに、資源の乏しい我が国ではエネルギー自給率は低く、ガソリン価格の値上げ、電気料金やガス料金の値上げなど、日常生活に多くの影響が出始めている。本記事では特に日本のエネルギー安全保障に関し、発電のカーボンニュートラル化も含めて記載した。

発電方式のカーボンニュートラル

日本の発電方式とカーボンニュートラルへの取組み

 現在はパリ協定により世界で産業活動のカーボンニュートラルに注目が集まっており、産業活動の中核である発電においては、世界的に再生可能エネルギー発電が進められている。日本でも近年、エネルギー基本計画が見直しされ、2050年カーボンニュートラル実現を目指すことが宣言された。しかし日本における2020年度の再生可能エネルギー発電の割合は20.8%であり、火力74.9%、原子力4.3%となっている。表1は日本における電力方法の2014年度から2020年度までの推移を示したものである。

表1.日本の電力方法の推移
(全発電量を100%としたときの発電方式ごとの発電量の割合%)

発電方式 2014
年度
2015 年度 2016
年度
2017年度 2018年度 2019年度 2020年度
水力 8.0 8.6 7.6 7.6 7.8 7.4 7.9
②バイオマス 1.5 1.5 1.9 2.0 2.2 2.7 3.2
③地熱 0.24 0.25 0.22 0.21 0.22 0.24 0.25
④風力 0.47 0.50 0.54 0.61 0.69 0.76 0.86
⑤太陽光 1.9 3.0 4.4 5.7 6.5 7.4 8.5
再生可能エネルギー 12.1 13.8 14.7 16.4 17.4 18.5 20.8
⑥石炭     30.2 30.2 28.2 27.8 27.6
⑦石油     14.5 12.2 12.3 11.2 11.9
⑧LNG     38.9 38.4 37.4 36.0 35.4
火力 87.9 85.7 83.6 80.8 77.9 75.0 74.9
原子力 0.0 0.4 1.7 2.8 4.7 6.5 4.3

( 環境エネルギー政策研究所(ISEP : Institute for Sustainable Energy Policies)よりデータ転記 )

 表1中、発電方式①から⑤までが再生可能エネルギー発電、⑥から⑧までが火力発電、すなわち化石燃料を使用した発電である。
 表1から、日本の再生可能エネルギー発電は徐々に増加しつつあるものの、依然火力発電の占める割合が多いことがわかる。また、再生可能エネルギー中、大容量発電が可能で、かつ技術が確立されている水力発電が2014年度から2020年度にかけて全く増えていないことがわかる。

主要各国の発電方式とカーボンニュートラル

 表2は、主要国の電源別発電量を示したものである。表2では、 再生可能エネルギー発電 は水力とその他が該当し、化石燃料を使用した発電、すなわち火力発電は石炭、石油、天然ガスの三つが該当する。火力発電の比率が高いのは、中国、アメリカ、インド、ロシア、日本、韓国、イギリス、イタリアであるが、そのうち、中国、インド、韓国は石炭発電の占める割合が高く、 アメリカ、ロシア、日本、イギリス、イタリアは天然ガスの占める割合が高い。この中、欧州は再生可能エネルギー(水力+その他)の割合が高く、イギリス39%、イタリア41.1%となっている。また、同じ欧州でもフランスは原発依存率が69.9%と高い。
 また、自然に恵まれ水が豊富な国では水力発電の占める割合が高く、カナダ58.4%、ブラジル 63.5%となっている。我が国は国土は大きくはないものの、自然に恵まれ水力発電に適した河川が多いが、水力発電の占める割合は低く8.8%と低い。 

表2.主要国の電源別発電量( % )

  石炭 石油 天然ガス 原子力 水力 その他
中国 65.0 0.1 2.8 4.6 17.4 10.0
アメリカ 24.2 0.8 37.4 19.3 6.8 11.4
インド 72.7 0.4 4.0 2.9 10.6 9.4
ロシア 15.8 1.1 46.4 18.7 17.5 0.5
日本 31.6 4.8 33.9 6.4 8.8 14.5
カナダ 7.5 0.9 10.1 15.5 58.4 7.6
ブラジル 3.8 1.6 9.7 2.6 63.5 18.8
ドイツ 30.0 0.8 15.3 12.1 4.2 37.5
韓国 40.3 2.5 26.0 25.1 1.1 4.9
フランス 1.1 1.1 6.7 69.9 10.9 10.2
イギリス 2.4 0.3 40.9 17.4 2.4 36.6
イタリア 6.1 3.7 49.1   16.3 24.8
世界 36.7 2.8 23.5 10.3 16.0 10.8
OECD 22.4 1.7 29.6 17.7 13.6 15.0
非OECD 46.7 3.5 19.2 5.1 17.7 7.8

(2019年電気事業連合会資料から転記)

発電方式別発電コスト

 表3には、発電方式別の、発電コスト( 円/kWh )と、算出条件としての設備利用率と稼働年数を示した。表から、風力(陸上)、太陽光の発電コストは原発と同等レベルである。これらは原発と異なり危険性のないクリーンなエネルギーであるが、大容量発電に不向きなこと、天候に左右される点で問題がある。クリーンエネルギーとして大容量発電にも適応できる水力は、発電コストも低く安全である点で優れている。

表3.方式別発電コスト(2021年8月4日資源エネルギー庁資料より引用)

  発電方式   発電コスト:円/kWh 設備利用率:%
(稼働年数:年)
石炭火力 13.6~22.4 70%(40年)
石油火力 24.9~27.5 30%(40年)
LNG火力 10.7~14.3 70%(40年)
原子力 11.7~ 70%(40年)
陸上風力 9.9~17.2 25.4%(25年)
洋上風力 26.1 33.2%(25年)
太陽光(事業用) 8.2~11.8 17.2%(25年)
太陽光(住宅) 8.7~14.9 13.8%(25年)
小水力 25.3 60%(40年)
中水力 10.9 60%(40年)
大水力   ーー  
地熱 17.4 83%(40年)
バイオマス(混焼) 14.1~22.6 70%(40年)
バイオマス(専焼) 29.8 87%(40年)

発電方式別$CO_2$発生量(kg/kWh)

 以下に、再生可能エネルギーの発電方式に関し$CO_2$発生量を記載した。データは資源エネルギー庁の資料から引用した。

  • 太陽光発電:0.053kg-$CO_2$/kWh
  • 風力発電:0.029kg-$CO_2$/kWh
  • 原子力発電:0.032kg-$CO_2$/kWh
  • 地熱発電:0.015kg-$CO_2$/kWh
  • 水力発電:0.011kg-$CO_2$/kWh

 これより、太陽光発電を除くすべての発電方式は、$CO_2$発生量において原子力発電より少ないことがわかる。

日本のカーボンニュートラルの現状

 以上見てきたデータをまとめれば以下のようになる。
 日本の再生可能エネルギー発電は徐々に増加しつつあるが。2020年においても依然火力発電の占める割合が多い。また、再生可能エネルギー中、大容量発電が可能で、かつ技術が確立されている水力発電の占める割合は2014年から2020年にかけて全く増えていない。2020年における日本の再生可能エネルギー発電の割合は20.8%(水力は8.8%)であり、火力74.9%、原子力4.3%となっている。
 諸外国においては、自然に恵まれ水が豊富な国では水力発電の占める割合が高く、カナダ58.4%、ブラジル 63.5%となっている。我が国はカナダやブラジルの比べ国土は大きくはないが、自然に恵まれ水力発電に適した河川が多い。にも拘らず水力の占める割合は 8.8%と低い。
 発電コストに関してみれば、風力(陸上)、太陽光の発電コストは原発と同等レベルである。これらは原発と異なり危険性のないクリーンなエネルギーであるが、大容量発電に不向きなこと、天候に左右される点で問題がある。
 クリーンエネルギーとして大容量発電にも適応できる水力は、発電コストも低く安全である点で優れており、 $CO_2$ 発生量においても原子力発電より少ない。

化石燃料と核燃料の自給率

原油の輸入比率

 図1は、1965年度から2018年度までの年度別LNGの輸入量と輸入比率を、縦軸左側に量(単位:百万キロリットル)を、縦軸右側に輸入比率(単位:%)を、横軸に年度をとって示したものである。
 図中、棒グラフの緑色部分が輸入原油、青色部分が国産原油の量を示しており、赤色の線グラフが輸入比率を示している。
 図から明らかなように、年度により輸入量に変化はあるものの、輸入率は1970年頃からほぼ100%で変化していないことがわかる。すなわち、我が国の原油の自給率はほぼ0%ということである。

図1.原油の輸入量と輸入比率 (出典:経済産業省「資源・エネルギー統計年報・月報」)

LNGの輸入比率

 図2は、1965年度から2018年度までの年度別原油の輸入量と輸入比率を、縦軸左側に量(単位:百万トン)を、縦軸右側に輸入比率(単位:%)を、横軸に年度をとって示したものである。
 図中、青色部分が輸入LNG、黃色部分が天然ガスの量を示しており、赤色の線が輸入比率を示している。
 図から明らかなように、1970年度ころから始まったLNGの輸入は2018年度まで年度が改まるごとに増加の一途を辿って来ている。また、輸入比率は1990年頃に95%に達し、2018年度では97%となっている。すなわち、我が国のLNGの自給率もほぼ0%ということである。

図2.LNGの輸入量と輸入比率( 出典:経済産業省「資源・エネルギー統計年報・月報 )

石炭の輸入比率

 図3は、1965年度から2018年度までの年度別石炭の輸入量と輸入比率を、縦軸左側に量(単位:百万トン)を、縦軸右側に輸入比率(単位:%)を、横軸に年度をとって示したものである。
 図中、青色部分が輸入炭、黃色・黄土色部分が国内炭の量を示しており、赤色の線が輸入比率を示している。
 図から明らかなように、1965年度頃産出されていた国内炭は2000年頃にはほぼ0となり、輸入比率100%に達している。すなわち、我が国の石炭の自給率もほぼ0%ということである。

図3.石炭の輸入量と輸入比率( 出典:経済産業省「資源・エネルギー統計年報・月報 )

ウランの輸入比率

 1988年のの日本のウラン必要量は,8,700ショートトンで,世界のウラン必要量の16%となっている。これらのウランは全てカナダ,オーストラリア,アフリカ等から輸入している。我が国の電気事業者は,カナダ,英国,オーストラリア等から主として長期契約等により約18万ショートトン,また,ニジェール及びオーストラリアの開発輸入分として約4万ショートトン,計約22万ショートトンの天然ウランを確保している。 表4は、主要ウラン産出国の1988年における資源量(単位:1000ショートトン)を表したものである。
 ここでショートトン(st)とは米国で主に使われている重量の単位である。 現在は使われないが米トン(あるいはアメリカトン)ともいわれた。 1ショートトンは2,000lb(ポンド)=907.18kgである。 また、 $U_3O_8$八酸化三ウランは、化学式が $U_3O_8$と表されるウランの酸化物である。
 表4から、ウラン資源に関しても日本はほとんど外国に頼っており、輸入比率はほぼ100%である。

表4.主要ウラン産出国のウラン資源 ( $U_3O_8$ ) 量( 単位 :1000ショートトン $U_3O_8$ )

(出典:1989年の原子力委員会の白書から転記)

輸入依存度が高い火力発電と原子力発電

 以上見てきたように、化石燃料(石油、LNG,石炭)発電に関しては、$CO_2$を発生するだけでなく、 外国からの安定した一次燃料獲得が課題となり、国家のエネルギー安保上は問題のある発電である。また、原子力発電に関しては、 $CO_2$ を発生しないものの、燃料のウランは国内で算出せず、外国からの安定した燃料獲得が課題となる点で、国家のエネルギー安保上は問題のある発電である。

日本のエネルギー問題に対する各界の見解

 鉱物資源や化石燃料資源に乏しい我が国において、エネルギー安保上真に不安がないのは、①エネルギー確保の不安が無いこと(国内で賄えること)、②安価で安定した電気の供給が行えること、③環境破壊を起こさないこと(住環境を壊さないこと)が挙げられる。この点の何れをもみたす発電方法としては、太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス等がある。これら将来の日本のエネルギー政策に関し、どのようなことが言われているか以下に2~3の例を紹介しよう。

一般財団法人 省エネルギーセンター

 「非化石エネルギー」のうち再エネについては,国内 において普及が進みつつあるが,2019 年では全体 の 5%程度である。化石燃料に比べ総じて割高であり,ま た太陽光や風力は,気象等による変動が大きいといった 課題もあり,蓄電・蓄熱の技術が重要となる。
 「非化石エネルギー」のうち原子力発電は,広く実用化された技術であり,大震災における福島第一発電所の 事故以降,稼働が低調に推移しているが,安定的な供 給が期待できる技術である。今後は何よりも安全性の確保が重要となる。(「脱炭素社会」における エネルギー需給構造 についての一考察:一般財団法人 省エネルギーセンター専務理事 奥村和夫)より転記

東京電力

化石燃料に代わるエネルギーとして原子力のほかに, 太陽光,風力,バイオエタノール等が挙げられているが, これら再生可能エネルギーは質,量,価格を考慮すると, いずれ補助的エネルギーに止まり,豊富で安い基幹エネルギーとして化石燃料を代替できるものは原子力に限られる。温暖化ガス排出削減に当たっても経済性の確保は重要で,この点から太陽光,風力,バイオ エタノール等の代替手段に比して原子力の優位性は疑う余地がない。(化石燃料からのエネルギー転換を急げ (元東京電力㈱ 池亀 亮 )より転記)

東京大学 生産技術研究所

 しっかりした安全基準を確立し,原子力を1日 も早く運転再開することが肝要であり,再稼働が遅れれ ば遅れるほど日本経済が疲弊する。
 原発停止による火力 発電の急増(燃料費増加)に対する対策としては,火力発 電所の効率向上が唯一の解決策である。火力発電の効率 向上により,燃料消費量削減による燃料費用増加防止,$CO_2$発生量削減が見込め,地球温暖化対策としても有効 である。(最近の世界のエネルギー確保の動き・経済 ダイナミズムと関連技術( 東京大学 生産技術研究所 金子 祥三 )より転記)

産総研・関西センター、他

 我が国には再生可能エネルギー資源は多量にある。森林が 67%で年間成長量は大きく、バイオマスの蓄積 率は世界一、水力、太陽光、風力もたくさんある。環境省の平成 23 年の調査報告では我が国の再生可 能エネルギーのポテンシャルは、9 電力合計の 10 倍以上になる[22]。また平成 26 年の試算では、2030 年 再生可能エネルギー33%が可能で原子力にこだわらないで十分賄えると予測した。
  我が国の財界は温暖化ガス(GHG)削減率を大きくすると経済が停滞すると言っていた。そうであろう か?日本以外の国は GHG 削減 を大きく達成して、GDP 成長率が伸びている。困難な課題に挑戦して、再生可能エネルギーの普及に努力し ている方が、経済成長が大きくなる。このままでは日本は経済がダメになると心配する識者がいる。(エネルギー政策の日欧比較 -再生可能エネ拡大には地域資源としての法整備が重要- ( 本庄孝子(元産総研・関西センター)、大槻真一(龍谷大学) )より転記

経済産業省

  我が国の自然条件等を踏まえつつ、各電源の個性に応じた再生可能エネルギーの最大限の導入を行う観 点から、自然条件によらず安定的な運用が可能な地熱・水 力・バイオマスにより原子力を置き換えることを見込む原子力発電については、安全性の確保を大前提としつつ、徹底した省エネ、再生可 能エネルギーの最大限の拡大、火力の高効率化等により可能な限り依存度を低減することを見込む。(長期エネルギー需給見通し (平成27年7月 経済産業省 )より転記)

原子力発電の問題

 前項で各界の有識者が持っているエネルギー安全保障上の様々な考えを紹介した。初めに結論ありきの原発必要論者(元東京電力関係者)、原発は必要であるが安全性の担保が必要であるという識者(経産省、省エネセンター)、我が国には再生可能エネルギー資源は多量にあり、原発に頼らなくても十分賄えるという識者(産総研)など、識者によって考えは様々である。
 ここでは福島原発事故から11年が経過し、忘れ去られようとしている原発の問題について、純技術的視点から簡単に述べることとしたい。

事故発生時の損害の甚大さ

 2011年3月11日の東日本大震災によって発生した、東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、大量の放射性物質が大気中に放出された。放出された放射性物質は、福島県だけでなく、宮城県、関東1都6県、静岡県などの広い範囲で、土壌、水道水、農産物、畜産物、上下水道汚泥など様々な環境汚染を引き起こしている。
 大気中に放出された放射性物質は、風によって風下に運ばれながら、風の乱れによって水平・鉛直方向に広がって行く。大気中の放射性物質は、最終的に大気中から地表面に沈着したり、海面に落下するが、地上に落ちた放射性物質のうち、半減期が長い放射性セシウム(セシウム134とセシウム137)が私達の生活と周りの環境に大きな影響を及ぼしている。

 図4は福島原発事故により、3月15日~16日と3月21日以降の数日の2期間で 地上または海面に落下したヨウソ131とセシウム137の量を示したものである。
 図から原発を中心とした広い範囲が1平方メートルあたり50キロベクレルで汚染された(赤色の領域)ことがわかる。また 1平方メートルあたり10キロベクレル以下の汚染領域(青色の領域)は原発の東側に大きく広がっている。これは北半球中緯度にある日本は偏西風帯にあり、大気の中層・上層では常に強い西風が吹いており、中層以上に吹き上げられた粒径の小さな汚染物質は偏西風によって東へと運ばれることによる。粒径が大きく大気下層を超えることのなかった汚染物質は下層の風や大気の拡散によって移動しながら落下する。赤色の領域からみて、3月15日~16日と3月21日以降の数日の2期間の下層の風はどちらかといえば東寄りの風が優位であったと考えられる。

図1
図4 2011年3月11日から29日における、モデルで計算されたヨウ素131(左図)とセシウム137(右図)の蓄積沈着量。単位はいずれも kBq m-2。 ( 国立環境研究所東日本大震災ホームページ より転記)

廃炉作業の困難さと発生費用

 事故から10年以上が過ぎた現在においても廃炉作業は先が見えず(燃料デブリの取出し方法模索中)、トリチウムで汚染された冷却水は原発敷地内で溢れかえり海に投棄をせざるを得なくなっている。一旦事故が起これば、広範囲かつ長期にわたり土地や海が汚染され、事故後いつ終わるとも知れず何十年と続く廃炉作業において周辺に放射性物質が漏れ出る危険があること、廃炉作業を含め事故処理費用は莫大な額になり国民全体に負担を及ぼすことなど、将来に続く課題が解決されていないのが原発である。https://news.yahoo.co.jp/byline/iizukamakiko/20210311-00226761
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210426/k10012997401000.html

福島原発事故は不幸中の幸い

 福島原発事故で幸いであったのが、福島原発が東海岸に立地していたことである。日本は偏西風帯に位置しており、上空を偏西風(ジェット気流)が吹いている。それゆえ、爆発で中層以上に吹き上げられた放射性物質は、偏西風に乗り東へと運ばれ、1週間から10日ほどで地球を1周する。事故直後、人工衛星から撮った写真によれば、陸地の汚染は、原発周辺の汚染レベルからすれば低い値ではあるが 、太平洋を超えたアメリカ大陸まで及んでいることが明らかになっている(図5)。

図5.福島原発事故による陸地の汚染

 海面上に落ちた汚染粒子は海面下に沈むので、人工衛星の写真で捉えることは出来なかったが、海流に乗り北太平洋全体に拡散しながら汚染を広げていったことは容易に想像できる。仮に、福島原発の東側に大都市があった場合、その被害は日本経済の根幹を揺さぶるものになっていたかもわからない。

図6.福島原発事故による海洋の汚染のシミュレーション

若狭湾の原発群が事故を起こせば致命的

 若狭湾には多数の原発があるが、原発の東側には関西の水瓶である琵琶湖があり、その東には中京圏の大都市がある。 若狭湾にある原発で福島原発事故レベルの事故が起き、琵琶湖や名古屋など中京圏の大都市がひどく汚染されれば、日本の経済は再起不能のダメージを受け、世界の三流国に転落することも考えられる。

原発事故の原因

 原発事故の原因としては、自然災害、誤操作や装置トラブルなどがある。

自然災害

 原発に影響を与える自然災害としては、地震と地震が主な原因となる津波が考えられる。日本は環太平洋火山帯上にあり、世界でも地震の多い場所である。図7および図8には、マグにユード4.0以上の地震の発生箇所を、震源の深さ100km以上と100km以下で示したものである。

図7.マグにユード4.0以上、震源の深さ100km以上の地震の発生箇所
図8. マグにユード4.0以上、震源の深さ100km以下の地震の発生箇所

 図7および図8から明らかなように、地中海沿岸地域を除くヨーロッパ大陸と日本では地震発生頻度が大きく異なっている。特に、震源の深さ100km以上の地震の発生は、北米大陸、アフリカ大陸、ユーラシア大陸の殆どの地域では発生しておらず、日本を含む東南アジア、ニュージーランドなどごく一部の地域に限られていることがわかる。日本付近は移動する四つのプレートがぶつかり合う世界有数の変動帯であるばかりでなく、多雨帯に位置するため、岩盤の破砕度が激しく亀裂が生じやすいことなど、地震が起こりやすい条件が揃っている。

誤操作・装置トラブル

 原発事故は自然災害の他、誤操作や装置のトラブルによっても起こる可能性がある。事故を誘引するものとして考えられるのは、制御棒の脱落や誤操作、1次冷却系のトラブル(電源喪失、冷却水漏等)や誤操作、圧力容器の不具合などである。https://marisuke.com/archives/1031

事故以外の問題

 原発では事故以外に、特に圧力容器の脆性遷移温度上昇の問題、使用済み燃料(核廃棄物)の処理問題がある。

圧力容器の脆化と使用可能年数延長の問題

 核燃料ウラン235の原子核に中性子がぶつかるとウラン235の原子核は二つに分裂し、中から二つの中性子が飛び出してくる。核分裂で発生した中性子は周囲の二つのウラン235の原子核にぶつかり分裂させ、四つの中性子を発生させる。このように核分裂は指数関数的に進行する。これが核分裂の連鎖反応であり、膨大なエネルギーを発生する。この核分裂は圧力容器の中で起こっており、圧力容器の内側は中性子の照射を受け、次第に脆くなっていく 。
 これが脆性遷移温度の上昇という現象で、展延性(伸ばしたり曲げたり出来る性質)を持つ金属が脆化し(もろくなり)、常温でも外力が加わると簡単に割れてしまうようになる。 https://marisuke.com/archives/1031
 原発での現実の問題としては、何らかの原因で1次冷却水が足らなくなり、常温の水を大量に圧力容器内に注入した場合、圧力容器に熱応力が発生することである。脆くなった圧力容器が熱応力で割れたり、ヒビが入ったりする危険がある。
 脆性遷移温度の上昇量は、中性子被ばく量が大きいほど大きくなる。言いかえれば、使用年数の多い圧力容器ほど脆性遷移温度が高くなる。これが原発の40年廃炉の理由であった。この廃炉40年の規定が福島原発事故後に、原子力委員会が、原子力発電の建屋の放射線対策などを進めれば新規制基準に適合するとの審査書案を了承した。廃炉40年が廃炉60年に変更されたのである。

 圧力容器は高温高圧(300℃超、165気圧)に耐えられる頑丈な金属製の容器であるが、原子力発電の建屋は鉄骨とコンクリートで作られた建物であり、機密性、強度何れにおいても、圧力容器には遠く及ばない。配管の多い巨大な建物であるが故至るところ穴だらけであり機密性に乏しく、強度においても水素爆発で吹き飛ぶほどのお粗末なものであることは福島原発事故が示すとおりである。
 したがって、建屋の放射線対策は圧力容器の脆化に対し、何ら効果のないまやかしの対策であるのは明白である。原発を長く運転したいという視点からの結論ありきの新規制基準と言わざるをえない。 https://marisuke.com/archives/1094

再処理と地層処分の問題

再処理の問題

 再処理とは、原発の使用済み燃料からプルトニウムとウランを回収することをいう。再処理を行う意義として、
①ウラン資源の節約が出来る。これにより燃料の26%が再利用できる
②高レベル放射性廃棄物の処分量を(約1/4)に減らすことが出来る
③高レベル放射性廃棄物の無毒化に要する時間が(10万年→1万年)に短縮できる
点が挙げられる。
 また、再処理の問題点としては、
①低レベル放射性廃棄物が日常的に環境中に放出される、
②再処理をするため、核物質の船舶・車両による輸送が必要となる、
点が挙げられる。

放射性廃棄物の地層処理

 放射性廃棄物は高レベル放射性廃棄物(人体に危険な高い放射能を出す廃棄物)と低レベル放射性廃棄物(比較的高くない放射能を出す廃棄物)に区分され、それぞれに異なる処分を行っている。

高レベル放射性廃棄物

 再処理工場で出る高レベルの放射性廃液は高レベル放射性廃棄物であり、濃縮しガラス素材と混ぜてステンレス製容器に注入・固化した後、30~50年間地上にて冷却保管し、放射能と崩壊熱の減少を待ったのち地層処分(下記)される。

低レベル放射性廃棄物

 原子力発電の運転や点検などに伴い発生する放射能を帯びた放射性廃棄物は低レベル放射性廃棄物と呼ばれる。これらの廃棄物はセメントで固めるなどしてドラム缶に詰め、低レベル放射性廃棄物埋設センター(青森県六ケ所村)で処分される。

地層処分の問題

 日本政府が推奨しているガラス固化体地層処分の基本概念は、深さ数百~千mの安定な地質環境に、人工バリアと天然バリアから成る「多重バリアシステム」を構築して、廃棄物からの放射能を何十万年と言う長期にわたって人間の生活環境から安全に隔離するというものである。

 ガラス固化体は、地中に埋設するまでの冷却期間30~50年間を地上にて保管されるが、その期間の管理上の問題として、冷却システム故障時の問題、地震や自然災害時の問題、テロの標的とされる等の問題がある。

 高レベル放射性廃棄物には半減期が何万年というものを含むが、実際に使用されているステンレス製キャニスター(ガラス固化体を入れる容器)の製造メーカーは、放射性物質保管期間として100年保証しているにすぎず、キャニスターを封入する金属製のオーバーパックも耐用年数は1000年に過ぎない。https://marisuke.com/archives/1035

国家紛争時やテロにおける攻撃対象

 有事(戦争やテロ)の場合、原発は攻撃対象とされるのが普通である。北朝鮮や中国のミサイルは、首都東京を含む大都市、我が国内にある軍事基地および原発に向けられているのは当然のことである。また、ソ連のミサイルについても同様であろう。
 テロの場合は、最も対象となりやすいものが原発である。訓練された特殊部隊数人で乗っ取ることが容易にできるからである。特に平和ボケした日本の原発においては、テロに対応できるような人員も配置されておらず、簡単に乗っ取られる可能性が高い。

再生可能エネルギーと水力発電

 資源のない我が国では再生可能エネルギーを拡大することが望まれる。再生可能エネルギーのうち、太陽光や風力は大規模発電に不向きで天候などに左右されるという問題があり、将来の発電方式として地熱発電が期待されているようであるが、場所が温泉保養地や国立公園・国定公園などにあり、実用にはまだまだ時間を要するようである。
 一方、周辺の生態系に大きな影響を与えるということで将来の電力方式として議論されていないのが水力発電である。水力発電は必要なのは水の流れだけであるが、日本には水力発電に適した河川は多く存在している。ダムの新設では生態系に影響を与えるものの、ダムが完成し運用が始まれば新たな生態系が出来上がり、新たな自然環境が出来上がる。
  生態系に影響を与えるのは水力発電に限らない。地熱発電では地下水脈が変わる可能性があり、原発では大量の温かい水(2次冷却水)が稼働中常時海に放流されている。大規模太陽光ではパネルで影になった地面の温度が下がり、何らかの影響が出るかもわからない。そもそも人が経済活動をすること自体が環境の破壊に通ずるものである。事故時も含めて(地域的、時間的に)最小の環境破壊で、長期にわたって安定供給する方法を確立すべきである。

再生可能エネルギーは国家百年の計で

 以上、日本の将来にわたるエネルギー安全保障を、カーボンニュートラルと合わせて見てくると、再生可能エネルギーと原発の併存を、原発の安全性確保を条件として主張する識者も多いことがわかる。原発の併存は不可欠とする識者の主張で疑問を感じるのは「原発は化石燃料に比べ少量の燃料で大電力の発電が可能」であると主張する点である。
  原発の燃料であるウランは化石燃料に比べ少量で同レベルの発電が出来ることは事実である。しかし、ウランがほぼ100%輸入に頼らざるを得ないという点を考えれば、エネルギーの安全保障上問題があることは明白である。現時点で長期にわたる確保の計画はあるようであるが、国際情勢の変化でいつ輸入できなくなるかはわからない。現に、ロシアがウクライナ侵攻に対する経済制裁に加わったスイスに核燃料の輸出を停止するというような話も出始めている。

 ロシアのウクライナ侵攻に対する経済制裁により、ロシアからの化石燃料輸入を禁止したヨーロッパ諸国では、発電量の減少を補うためイギリスやフランスで原発増設の方針が出されているが、図7、図8から見るように、地震発生率が日本とは全く異なっている。地震がほとんど起こらないヨーロッパ諸国が原発を推進するからと言って日本が安易に原発を進める理由にはならない。
 日本には水力発電に適した河川が多く、他の再生エネルギーと組み合わせれば1次エネルギー(発電機を回すのにに必要なエネルギー資源:化石燃料や核燃料)を輸入に頼ることなく、発電量を賄うことも可能である。

 21世紀は、自然現象も世界情勢も大きく変わり始めている。
 長期的なエネルギー安全保障の立場に立つならば、政治家や産業界は20世紀的思考から脱却し、過去の価値観や産業構造にとらわれることなく、世界をリードするような新たな視点で国の将来を考えて貰いたいものである。

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