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地衡風と傾度風|気圧傾度、コリオリ力、空気塊の運動によって定まる風速と風向

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 太陽の熱を受けながら自転している地球は、赤道から両極に向かって気温が下がっていきます。また、慣性系座標に対して回転する回転座標系であるため、地球の大気層内の空気塊の運動も特有の力(気圧傾度力、コリオリ力等)が作用します。そのような条件下でどのように風が発生するかについて、以下に説明することといたします。

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気体の状態方程式

理想気体の場合

 理想気体の圧力、容積、絶対温度の間にはボイル・シャルル(Boyle-Charles)の法則(1)式と状態方程式(2)式が知られている。

$\dfrac{p_1V_1}{T_1}=\dfrac{p_2V_2}{T_2}=一定$ ・・・(1)

$pV=mRT$ ・・・(2)

(1)(2)式において、$p$は気体の圧力、$T$は気体の絶対温度、$V$は気体の容積、$m$は気体の質量、$R$は考えている気体に特有な定数(気体定数 gas constant)を表している。
 (2)式は、容積$V$中に $n$ kmol(nキロモル) の気体分子が含まれている場合、次の式で表される。

$pV=nR^*T$ ・・・(3)

(3)式の$R^*$を一般気体定数といい、機体の種類によらない一定の値である。
気体の圧力の単位を$kgf/m^2$、気体の容積の単位を$m^3$、気体のモル数を$kmol$、絶対温度を$°K$とすれば、$R^*$の値と単位は、

$R^*=847.82\dfrac{kgm}{kmol°K}$ ・・・(4)

となる。

乾燥空気(混合気体)の状態方程式

 次に乾燥空気)の状態方程式を考えることにする。
まず、(2)式において$\dfrac{m}{V}=ρ(気体の密度)$であり、また、$\dfrac{1}{ρ}=α(気体の比容積)$であるから(2)式は次のようにも書ける。 (2)’、(2)”は単位質量の気体の状態方程式である。

$p=RρT$ ・・・(2)’

$pα=RT$  ・・・(2)”

 空気は混合気体であるから、空気の状態方程式は混合気体の場合の状態方程式がどうなるかを考えればよい。

 混合気体がいくつかの気体の混合物であるとき、その$i$番目の成分が混合気体と同じ容積を同じ温度で占めるときの圧力を$p_i$と書き、これを$i$番目の気体の分圧という。ドルトンの法則(Dalton’s law)によれば、混合気体の圧力は各成分気体の分圧の和に等しい。式で書けば、

$p=Σp_i$ ・・・(5)

理想気体の状態方程式は混合気体の各成分気体についても成立するので、$i$番目の成分気体の分子量を$M_i$、容積$V$の中にある成分気体の質量を$m_i$とすれば(4)式より、

$p_iV=\dfrac{m_i}{M_i}R^*T$ ・・・(5)

であるから、

$p=\dfrac{R^*T}{V}Σ\dfrac{m_i}{M_i}$ ・・・(6)

混合気体の質量は$Σm_i$であるから、混合気体の比容積は$α=\dfrac{V}{Σm_i}$である。したがって(6)式は、

$pα=R^*TΣ\dfrac{m_i}{M_i}/Σm_i$ ・・・(7)

ここで混合気体の平均分子量$M_m$、1kgの混合気体の気体定数$R_m$をそれぞれ、

$M_m=Σm_i/ Σ\dfrac{m_i}{M_i}$、$R_m=\dfrac{R^*}{M_m}$ ・・・(8)

と定義すれば、

$Σ\dfrac{m_i}{M_i}/Σm_i=\dfrac{1}{M_m}$ ・・・(9)

であるから、混合気体の状態方程式は、

$pα=R_mT$ ・・・(10)

または、混合気体の密度は$ρ=\dfrac{1}{α}=\dfrac{m_i}{V}$であるから、

$p=ρR_mT$ ・・・(11)

で表される。
 (10)(11)式において、$p$は大気の圧力を、$T$は大気の絶対温度を、$ρ$は大気の密度を、$α$は大気の比容積を、$R_m$は大気の気体定数を表している。

大気の等圧面

  図1は等圧面の高さが緯度によってどのように変わるかを、北半球について示した模式図であり、右端が赤道(緯度$0$°)を左端が北極(北緯$90°$)を表している。縦軸は高度を表すものとし、地表面近傍の$1000hPa$面の高さは緯度によって変わらないものとする。図中、$a$、$b$、$c$、・・・、$f$で示したのは等圧面で、上部の等圧面になるほど気圧は低くなっている。

図1.等圧面の高さと緯度の関係

等圧面高度の緯度依存性

 一般に対流圏内の等圧面上では、気温は緯度が高くなるにつれ低くなっている。それゆえ、混合気体の状態方程式の(10)式から、同一気圧においては、温度$T$が高い低緯度ほど比容積$α$が大きいことがわかる。したがって、図1に示すように、等圧面の高度は低緯度側で高く、高緯度になるに従って低くなって行く。同一等圧面では、等圧面の南北方向の傾きは中緯度帯(北緯45°付近)で大きく、さらに高層の等圧面になるほど同緯度における等圧面の南北方向の傾きは大きくなる。

 関連記事(https://marisuke.com/archives/13847)で説明したように、北半球では風は高圧側を右に見て等圧線に平行に吹き(空気塊は高圧側を右に見て等圧線に平行に移動し )、風速は気圧傾度(等圧線の水平面に対する傾き)が大きいほど大きくなる。これが中緯度の高層で偏西風の風速が最大になる(高層をジェット気流が吹く)理由である。

水平気圧傾度力

 図2は気圧差が微小容積の空気塊に及ぼす力(気圧傾度力)を説明するための図である。いま、等圧線$p$と$p-Δp$で挟まれる幅$Δs$、高さ$Δz$、等圧線間距離$Δn$の直方体を考える。
 面$AA’D’D$に作用する力と面$BB’C’C$に作用する力は向きが反対で大きさが等しいから直方体に力を及ぼさない。しかし、面$AA’B’B$に作用する力が$pΔsΔz$であるのに対し面$DD’C’C$に作用する力は$(p-Δp)ΔsΔz $であるので、 $ΔpΔsΔz $の力を直方体が受けていることになる。直方体の体積は$ΔsΔzΔn$であるから、単位容積あたり$Δp/Δn$の力が等圧線に直交する方向に、高圧側から低圧側に向かって作用していることになる。この空気塊の密度を$ρ$とすれば、空気塊の単位質量あたりに作用する力$F$は、

$F=-\dfrac{1}{ρ}\dfrac{Δp}{Δn}$ ・・・(12)

図2.水平気圧傾度力(一般気象学より転記)

である。この水平方向の気圧差によって生じる力を気圧傾度力(pressure gradient force)という。

補足

 気圧は高度とともに減少しており、鉛直方向にも下から上方へと気圧差による力が空気塊に作用している。しかし、鉛直方向の気圧傾度力は重力と釣り合った状態にあり、空気塊の運動には関与しない。したがって、気圧傾度力という場合、水平面における気圧差を問題とする。

気圧傾度力およびコリオリの力と地衡風

 北半球で空気塊が運動するとき、地球が回転座標系であることから空気塊にコリオリ力が作用する。これ以外に空気塊に作用する力は、摩擦力が作用する地表面や海面近くを除き、気圧傾度力しかないので気圧傾度力とコリオリ力が釣り合うことになる。その条件を満たすため、北半球では風は高圧側を右にして等圧線に平行に吹く(空気塊が移動する)。

図3.地衡風と気圧傾度力およびコリオリの力(一般気象学より転記)

地球の自転角速度を$Ω$、空気塊の移動速度(風速)を$V$とするとき、北半球の緯度$φ$の地点で単位質量あたりの空気塊に作用するコリオリ力の水平成分は$2ΩVsinφ$であるから(12)式より、

$2ΩVsinφ= \dfrac{1}{ρ}\dfrac{Δp}{Δn}$ ・・・(13)

これより、

$V=-\dfrac{1}{2ρΩsinφ}\dfrac{Δp}{Δn}$ ・・・(14)

以上をまとめて表現すれば、風は北半球では高圧側を右に見て等圧線に平行に吹き、その風速は(14)式で与えられる。このような風を地衡風(geostrophic wind)という。ただし、以上の議論が成り立つのは等圧線が直線に近い形状のときに限られることに注意する必要がある。

傾度風(低気圧や高気圧の風の場合)

 低気圧や高気圧等の場合は、空気塊が直線運動でなく求心加速度が作用するため(14)の地衡風の式はそのままでは適用できず、修正が必要である。図4は北半球における低気圧と高気圧の空気塊に作用する力の釣り合いを示した図であり、左が低気圧を、右が高気圧を表している。いずれも回転半径$r$、速度$V$で空気塊が回転運動しているものとする。 

図4.低気圧と高気圧の空気塊に作用する力(一般気象学より転記)

 低気圧の(空気塊が左回転の運動をする)場合、コリオリ力と遠心力の合力が気圧傾度力と釣り合っている。式で書けば、

$\dfrac{V^2}{r}+2ΩVsinφ=\dfrac{1}{ρ}\dfrac{Δp}{Δn}$ ・・・(15)

 高気圧の(空気塊が右回転の運動をする)場合、気圧傾度力と遠心力の合力がコリオリ力と釣り合っている。式で書けば、

$\dfrac{V^2}{r}+\dfrac{1}{ρ}\dfrac{Δp}{Δn}=2ΩVsinφ$ ・・・(16)

(15)式、(16)式で表される風を傾度風(gradient wind)という。等圧線が直線でないとき、空気塊に働く遠心力を考慮しているだけ、傾度風は地衡風よりも良い近似を与えていることになる。

(15)式、(16)式で、

$f=2Ωsinφ$、 $P_n=\dfrac{1}{ρ}\dfrac{Δp}{Δn}$ ・・・(17)

とおき、左回りの速度$V$を正、中心軸から離れる方に$n$が増加するものとすると、(15)式、(16)式は、

$\dfrac{V^2}{r}+fV=P_n$ ・・・(18)

と統一的に扱うことが出来る。(18)式では、高気圧の場合、$V<0$、$P_n<0$となる。(18)式を$V$の2次方程式とみて根の公式により$V$を求めれば、

$V=\dfrac{1}{2}(-rF±\sqrt(r^2f^2+4rP_n))$ ・・・(19)

低気圧性の風の場合(19)式の根号内は常に正であるから$V$は実根を持つが、高気圧性の風の場合は$P_n<0$であるため、$V$が実根を持つには (19)式の根号内は正でなければならない。すなわち、

$\dfrac{rf^2}{4}>-P_n$  ・・・(20)

でなければならない。したがって高気圧の中心近く、すなわち$r$が小さいところでは気圧傾度$-P_n$は小さくなければならない。これは実際の高気圧中心部で気圧傾度がなだらかなことと符合している。一方、低気圧の場合はそのような制約はなく、中心付近で大きな気圧傾度となることが出来る。台風などはその最たるものである。

地表面や海面近くの空気塊の運動

 地表面や海面近くで空気塊が運動するときは、気圧傾度力とコリオリ力以外に摩擦力が空気塊に作用する。摩擦力の大きさは地表面の起伏や地表面の状態(砂漠や森林、あるいは市街地)によって異なるが、作用する方向は空気塊の運動方向の逆方向である。したがって、 地表面や海面近くで空気塊が運動するときは、 コリオリの力と摩擦力の合力が気圧傾度力と釣り合うように空気塊が移動する(風が吹く)。

図5,地表面付近の空気塊に作用する力と釣り合い

 この結果、空気塊は高圧側を右に見て、左斜め前方に向かって等圧線を横切って吹くことになる。その結果、低気圧では左巻きの渦で風が中心に向かって吹き込み、高気圧では右巻きの渦で風が中心から周囲に向かって吹き出すことになる。この様子を図6に示した。

図6.地表面における低気圧と高気圧の風の方向

関連記事

https://marisuke.com/archives/13847

参考文献

小倉義光著  「一般気象学」       東京大学出版会

天気予報技術研究会編集  「天気予報の技術」 東京堂出版

森康夫著   「熱力学概論」       養賢堂

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