地球の北半球では、低気圧の中心に向かって左巻きの回転で周囲から空気が流れ込み、高気圧の中心からは右回りの回転で空気が周囲に流れ出しています。また、中緯度帯の中層、上層には常時強い西風(偏西風=ジェット気流)が吹いています。これらは地球が自転していること、すなわち慣性座標系に対して地球が回転している回転座標系であることが原因しています。以下、回転座標系における運動がどのような運動になるかについて詳しく説明することにします。
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慣性座標系における円運動の速度、加速度
ある物体が角速度$ω$、半径$r$の円運動をしているとき、その物体の速度と加速度を求めてみよう。
物体が$T$秒で円を一周する場合、角速度は、
$ω=\dfrac{2π}{T}$ (ラジアン/sec)・・(1)
である。物体の運動方向はその点の円周の接線方向に平行で、その速度の大きさ$V$は、
$V=rω$ ・・・(2)
である。
物体のある時刻$t$における位置を$P$とする。このとき、図1に示すように$OP$と$x$軸がなす角を$ωt$とすると、
$x$方向の速度$u$、$y$方向の速度$v$は、
$u=-rωsinωt$ ・・・(3)
$v=rωcosωt$ ・・・(4)

速度の微分が加速度であるから、(3)式、(4)式を微分すれば、 $x$方向の加速度、$y$方向の加速度は、
$x方向の加速度=\dfrac{d}{dt} (-rωsinωt )=-rω^2cosωt$ ・・・(5)
$y方向の加速度=\dfrac{d}{dt}( rωcosωt )=-rω^2sinωt$ ・・・(6)
(5)式、(6)式より加速度ベクトルの大きさは
$rω^2$ ・・・(7)
であり、方向は円運動の中心を向いている。この円運動の加速度を求心加速度という。求心加速度はまた、$ω$を用いず、接線方向の速度$V$を用いて
$\dfrac{V^2}{r}$ ・・・(7′)
と表すことも出来る。
さらに慣性系においてはNewtonの運動方程式が成り立つので、上記の円運動している物体が単位質量であるならば、物体に作用する求心力$F$は求心加速度に等しく
$F= rω^2 $ ・・・(7”)
あるいは
$F= \dfrac{V^2}{r} $ ・・・(7”’)
と書ける。
補足
テキストによってはこの議論を静止座標系上の問題として記述しているものがあるが、静止座標に対し回転運動を伴わない等速運動をしている慣性系においてもNewtonの運動方程式(物体に作用する力=物体の質量×物体の加速度)は成り立つので、ここでは慣性系と記述した。
回転座標系上の円運動における速度、加速度
次に図1の$x-y$直交座標が慣性系に対して角速度$Ω$で回転している場合を考える。 $x-y$直交座標で半径$r$の円周上を接線速度$V$で周回している単位質量の物体は、慣性系に対して半径$r$の円周上を接線速度$Ωr+V$で周回していることになる。よって(7’)式および(7”’)式から、物体に働く求心加速度および求心力は、
$\dfrac{(Ωr+V)^2}{r}$ ・・・(8)
となる。(8)式を展開して求心加速度および求心力を表せば、
$Ω^2r+2ΩV+\dfrac{V^2}{r}$ ・・・(9)
したがって、単位質量の物体が、角速度$Ω$の回転座標系上で半径$r$、周速$V$の円運動をする場合、慣性座標系で半径$r$、周速$V$の円運動をする場合に比べ 求心加速度および求心力が$Ω^2r+2ΩV$だけ大きくなる。
このうち、$ Ω^2r $が回転座標の回転による遠心力であり、$ 2ΩV $がコリオリの力と言われるものである。
補足
(8)式は別の表現をすることも出来る。回転座標系の慣性座標系に対する角速度は$Ω$、回転座標系$x-y$上で半径$r$の円周上を角速度$ω$で周回している単位質量の物体は、慣性系に対しては角速度$Ω+ω$で回転運動をしているので、(7)式および(7”)式から 求心加速度および求心力は、
$r(Ω+ω)^2=rΩ^2+2rΩω+rω^2$ ・・・(10)
とも書ける。$rω=V$であることから(10)式は(9)式と同じであることがわかる。
上であえて(9)式の表現をしたのは、回転座標系にいる観測者にとって回転座標系上の速度$V$、例えば風速などは観測しやすいが、風速の自転中心に対する角速度$ω$は観測しにくいことによる。
地球大気の運動
次に北半球における地球大気の運動を考えてみることにする。図2は地球の北半球を示したものである。
いま図の$P$点(北緯$φ$)で速度$u$の西風が吹いている(空気塊が速度$u$で北緯$φ$の円周上を移動している)ものとする。この場合、空気塊に作用する求心加速度は(7)式から$\dfrac{u^2}{Rcosφ}$としては求められない。(7)式(Newtonの運動方程式)が成り立つのは慣性系においてであるが、地球が自転(慣性系に対して角速度$Ω$の円運動)しているので地球表面は慣性系でなく回転座標系であるからである。

$P$点自体が慣性系に対して$ΩRcosφ$の回転運動をしているため、$P$点で$u$の風速を持つ空気塊は慣性系に対して$ΩRcosφ+u$の速度で回転運動をしていることになる。

したがって、北緯$φ$の地点で東向きに$u$の速度を持つ空気塊に作用する求心加速度は、
$\dfrac{(ΩRcosφ+u)^2}{Rcosφ}$ ・・・(11)
となる。この空気塊の単位質量あたりに作用する力$F$は,
$F= \dfrac{(ΩRcosφ+u)^2}{Rcosφ}=Ω^2Rcosφ+2Ωu+\dfrac{u^2}{Rcosφ}$・・・(12)
地球が慣性系に対して回転していないとき、すなわち自転していないときは、北緯$φ$の地点で東向きに$u$の速度を持つ空気塊に作用する求心加速度は、
$\dfrac{u^2}{Rcosφ}$ ・・・(13)
であり、単位質量の空気塊に作用する力$F’$は、
$F’= \dfrac{u^2}{Rcosφ} $ ・・・(14)
であるから、地球が角速度$Ω$で自転していることにより単位質量の空気塊に作用する求心力は自転していないときに比べ、
$ΔF= Ω^2Rcosφ+2Ωu $ ・・・(15)
だけ大きくなる。しかし、地球上の人にとって$P$点で$u$の速度を持つ西風は観測できても、地球が自転しているかどうかは感覚的に捉えられない。したがって(9)式を変形して
$F- Ω^2Rcosφ-2Ωu=\dfrac{u^2}{Rcosφ} $ ・・・(16)
とし、見かけ上の力$Ω^2Rcosφ$と$2Ωu$という力が地球自転軸から外向きに作用し、実際に作用している力$F$とこの見かけの力の合力が、地球に相対的な運動の加速度と質量の積に等しいとして取り扱えばよい。ここで、$Ω^2Rcosφ$が遠心力であり、$2Ωu$がコリオリの力と言われるものである。
地球の自転によって生ずる遠心力
この項では地球上で作用する遠心力について考えることにする。地球が自転していなければ、地球は慣性系とみなすことが出来、(固体流体を問わず) 地球上の物体に作用する力は地球が及ぼす万有引力のみであり、その力の方向は地球の重心点を向いている。これが図4の$g*$で示す方向であり、単位質量の物体であれば力の大きさは$g*$である。これは物体がどの緯度にあっても同じである。

しかし、実際には地球は角速度$Ω$で自転をしているため、緯度$φ$の地点にある単位質量の物体には、$Ω^2Rcosφ$という遠心加速度が、自転軸と$P$点を結んだ直線上の自転軸から離れる方向に作用する。
その結果、地表面$P$にある物体には、万有引力$g*$と遠心加速度$ Ω^2Rcosφ $の合力が作用する。これが図4の$g$である。この$g$が地球上にいる我々が重力として感じるものである。この$g$に垂直な面を繋いだのが等重力ポテンシャル面と言われるものであり、平均海面はこの形となっている。等重力ポテンシャル面は回転楕円体をしており、長径(赤道面における直径)は$6,378km$、短径(両極を結んだ長さ)は$6,357km$である。
遠心加速度$ Ω^2Rcosφ $は両極で$0$、赤道で最大であるが、赤道における値を求めてみよう。地球半径は$R=6,379km$、自転速度は$Ω=\dfrac{2π}{24×3600sec}=$ 、$cos0=1$であるから、
赤道面の遠心加速度 $ =0.033kgm/s^2$ ・・・(17)
が求める値である。これから遠心加速度は最大である赤道面においても、重力加速度の$0.3%$の大きさであることがわかる。
地球の自転によって生ずるコリオリ力
いま地球の自転の角速度を$Ω$、地球半径を$R$とする。北緯$φ$の点で東向きに$u$の速度で吹く風(風速$u$の西風)の単位質量あたりの空気塊に作用するコリオリ力の大きさは$2Ωu$であり、その方向はその地点と地球の自転軸を結んだ線上にあり、向きは自転軸と反対方向である(図5)。このコリオリ力を鉛直方向成分と水平方向成分とに分けると、鉛直方向成分の大きさは
$2Ωucosφ$ ・・・(18)
であり水平方向成分の大きさは
$2Ωusinφ$ ・・・(19)
となる。

いま風速$u=100m/s$と偏西風の最大値を取った場合のコリオリ力を求めると、
$2Ωu=2×\dfrac{2π}{24×3600/s}×100m/s=0.015m/s^2$ ・・・(20)
と重力加速度$g=9.81m/s^2$よりはるかに小さい。したがって、大気の運動を考えるときはコリオリ力の鉛直成分は無視し、水平方向成分だけを考えればよい。
コリオリの力補足(空気塊が南北方向に運動する場合)
ここでは単位質量の空気塊が北半球で南北方向に運動する場合(南北方向の風)を考えることにする。いま時刻$t$で緯度$φ$にあって東方向に速度$u$で運動していた空気塊(西風)が、微小時刻$δt$後に緯度$φ+δφ$に移動し、速度$u$が$u+δu$に変化したとする。空気塊に東西方向の力が働いていない場合、角運動量保存則($RV=$一定)が成り立つので、
$Rcosφ(ΩRcosφ+u)=Rcos(φ+δφ)(ΩRcos(φ+δφ)+(u+δu))$ ・・・(21)
となる。(19)式を高次の微小量を省略して整理すれば、
$-2ΩRδφcosφsinφ+δucosφ-uδφsinφ=0$ ・・・(22)
空気塊の南北方向の速さ(風速)は$v=Rδφ/δt$であるので、(22)式を書き換えると、
$\dfrac{δu}{δt}=2Ωvsinφ+\dfrac{uvsinφ}{Rcosφ}$ ・・・(23)

右辺第2項は高次の微小項であり、地球の自転$Ω$に関係しないので省略すれば、
$\dfrac{δu}{δt}= 2Ωvsinφ$ ・・・(24)
これが空気塊が南北に運動するときのコリオリ力の水平成分であり、$v>0$(南風)のとき $\dfrac{δu}{δt}>0$(緯度増加に伴う西風風速の増加)となり、$v<0$(北風)のとき $\dfrac{δu}{δt}<0$(緯度低下に伴う西風風速の低下)となる。すなわち南風も北風も進行方向に向かって右にそれていく。
(19)式と(24)式から、空気塊が北半球で速度$V$の運動するとき、空気塊には進行方向に直角に右向きのコリオリ力が作用する。単位質量の空気塊に作用するコリオリ力の水平成分の大きさは$2ΩVsinφ$である。南半球では進行方向に直角に左向きのコリオリ力が作用し、大きさは北半球の場合と同じである。
参考文献
山内恭彦著 「一般力学」 岩波書店
小倉義光著 「一般気象学」 東京大学出版会
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