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温帯低気圧の発生は偏西風の蛇行(傾圧不安定波)が原因

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温帯低気圧の発生は偏西風の蛇行(傾圧不安定波)が原因

 温帯低気圧の発生が偏西風の蛇行(傾圧不安定波)に起因すること、さらに傾圧不安定波は偏西風の南北両側の温度勾配を緩和するため、熱を低緯度側から高緯度側に輸送する働きがあることを説明した。

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等圧面高度の緯度による変化

 図1は地球の対流圏において等圧面の高さが緯度によってどのように変わるかを、地表面を横軸の直線として北半球について示した模式図であり、右端が赤道(緯度0°)を左端が北極(北緯90°)を表している。縦軸は高度を表すものとし、地表面近傍の1000hPa面の高さは緯度によって変わらないものとする。図中、a、b、c、・・・、fで示したのは等圧面で、上部の等圧面になるほど気圧は低くなっている。

図1.等圧面の高さと緯度の関係

北半球の気圧傾度と偏西風

 一般に対流圏内の等圧面上では、気温は緯度が高くなるにつれ低くなっている。それゆえ、気体の状態方程式から、同一気圧においては温度が高い低緯度ほど、同質量の空気の容積が大きくなる。したがって、等圧面の高度は低緯度側で高く、高緯度になるに従って低くなる。また、等圧面の南北方向の傾き(気圧傾度)は中緯度帯(北緯45°付近)で大きく、同緯度では高層の等圧面になるほど南北方向の傾き(気圧傾度)は大きくなる。
 このように温度の水平傾度によって南北方向の気圧傾度が生じ、地衡風が高度とともに変化していることを温度風(thermal wind)という。北半球では高圧部分を右に見て地衡風は高度とともに増加する。対流圏内では南北方向の気圧傾度は中緯度に集中しているので、中緯度地帯の上層で偏西風が最大となる。

図2.中緯度高層で風速が最大となる北半球の偏西風

 これが中緯度の上層を吹くジェット気流である。図2はその模式図である。南北方向の温度の水平傾度は、対流圏下層では地形や海陸の熱容量の差や海面温度の影響などを受け乱れることが多いが、対流圏の中層・高層では常時維持されているため、対流圏の中層・高層の中緯度帯では常に偏西風が吹いている。特に上層になるほど南北方向の気圧傾度も大きくなるので、偏西風の最大値が上層に存在する。

偏西風の蛇行による熱の高緯度側への輸送

 前項で見たように大気圏の中層・高層では等圧線高度は緯度が高くなるにつれ低くなっていく。そしてその南北方向の気圧傾度は中緯度で最も高く、同一緯度では高度が高いほど大きくなる。したがって、北半球の中緯度の中層・高層では、図3の上段の右向きの直線で示すような強い西風が吹いている。この風はある期間の平均値をとればほぼ緯度線に沿って吹いている。そして高層になるほど風速は大きくなっている。

  偏西風はある期間の平均値でみれば等緯度線にほぼ平行に吹くが、日々の動きを見れば、図3上図の破線で示すように南北に波打って東へと吹いている。偏西風帯に含まれている波長のうち、日々の天気の変化に関係するのは東西方向の波長(気圧の谷から次の気圧の谷までの長さ)が数千km程度の波長である。これは偏西風が不安定になって波動を起こし、その振幅が発達していくという運動であり、この波を傾圧不安定 (baro-clinic instability)な波( wave) という。
 

図3.高層のジェット気流と地上の高気圧と低気圧

 図3上図の破線で示される偏西風の波動は、流体力学的には、図3の実線で示す蛇行せずまっすぐ東に吹く直線上の流れに、高気圧性の流れ(右回りの流れ)および低気圧性の流れ(左回りの流れ)を加えたものと等価である。ただ、中層・高層では高気圧性の流れおよび低気圧性の流れの何れも直線上の流れに比べ速度が小さいため、結果として下図に示した地上天気図のような閉じた等圧線を作ることなく、南北に蛇行して東進する流れとなるわけである。図3下図は地上の高気圧と低気圧を示すが、 地上高気圧は高層の偏西風の気圧の峰(北側に凸となった箇所)に対応し、地上低気圧は高層の偏西風の気圧の谷(南側に凸となった箇所)に対応している。

偏西風の蛇行の原因

 東向きの地衡風速(偏西風の速度)は南北方向の水平温度傾度に比例する。これは地衡風速$u$が

$u=-\dfrac{1}{2ρΩsinφ}\dfrac{dp}{dn}$ ・・・(1)

で表されることと、$\dfrac{p/ρ}{T}=$一定から、$ρ=$(一定)の場合、

$dp=kdT$($k$は正の定数) ・・・(2)

であり、

$u=-K\dfrac{dT}{dn}$ ・・・(3)

となることから明らかである。上式において、$p$は大気圧、$ρ$は大気の密度、$Ω$は地球自転の角速度、$φ$は観測点の緯度、$\dfrac{dp}{dn}$は南北間距離$dn$間の気圧差$dp$、$\dfrac{dT}{dn}$は南北間距離$dn$間の温度差$dT$、(1)式の負号は空気塊に働く力が高圧側から低圧側に向かっていることを示しており、(3)式の負号は空気塊に働く力が高温側から低温側に向かっていることを示している。 北半球で東向きの地衡風速(偏西風の速度)は南北方向の水平温度傾度に比例することを示したのが図4である。

図4.地衡風速と等圧面・等温面の関係(一般気象学より引用)

 偏西風帯は南北方向の水平温度傾度が大きなところであり、その南側では暖気が、北側では寒気が流れている。地球の熱収支でみるとき、偏西風帯の低緯度側(北半球では偏西風帯の南側)は吸熱過多であり、偏西風帯の高緯度側(北半球では偏西風帯の北側)は放熱過多であり、低緯度側から高緯度側への熱輸送が必要になる。南北方向の水平温度傾度がある限界を越えると、偏西風は波長数千kmの傾圧不安定波を生じ蛇行するようになる。そして暖気は高緯度側へとうねり(蛇行の山の部分)、寒気は低緯度側へとうねり(蛇行の谷の部分) 、熱を低緯度側から高緯度側へと輸送する。そして、温度の南北傾度を緩和するように作用する。これが偏西風蛇行の原因である。

大気中の熱の南北輸送量

 図5は大気中における熱の南北輸送量を示した図である。図中の破線($b$)は南北鉛直断面内の大気の循環による熱輸送で、赤道から緯度$30°$くらいまでの低緯度において熱の高緯度側への輸送を行っている。これがハドレー循環と呼ばれるものである。図中の実線($c$)は傾圧不安定波の波動による熱輸送で、中緯度帯において熱の高緯度側への輸送を行っている。図中の一点鎖線($a$)はハドレー循環による熱輸送と、傾圧不安定波の波動による熱輸送とを合わせた大気中の全熱輸送量(低緯度側から高緯度側への輸送量)を表している。
  

図5.大気中の熱の南北輸送量(一般気象学より引用)

上層の気圧の谷と地上低気圧の関係

 図6は温帯低気圧の発生と発達の過程について示した図であり、破線が上層における気圧の谷を、実線が地上天気図を示している。
 上段左の図は地上で前線を境にして南側に暖気、北側に寒気がぶつかっている状態で、上層に北側から強い寒気(気圧の谷)が南下してきた状態を示している。偏西風蛇行の発生段階である。
 上段中の図は上層の気圧の谷がさらに南下し、寒気が暖気の下にもぐり込み寒冷前線を形成するとともに、前線南側にあった暖気は前線北側の寒気の上に上昇し温暖前線を形成し、地上天気図に低気圧が確認できるようになった段階である。偏西風蛇行および地上低気圧の発達初期段階である。
 上段右の図は上層の寒気(気圧の谷)が更に南下するとともに暖気も北上し、地上低気圧とそれに伴う前線も発達している。偏西風蛇行および地上低気圧の発達終期近い段階である。
 下段左の図は上層の気圧の谷が地上低気圧の上(同一経度)に来た状態で地上天気図に閉塞前線が認められる。低気圧は発達しきった状態で、これ以降は上層の偏西風の蛇行も次第に弱まり地上低気圧も弱まっていく(下段中)。

図6.温帯低気圧の発生と発達(天気予報の技術より引用)

偏西風蛇行時の上層、下層間の空気の流れ

 中緯度対流圏上層の長波(偏西風波動、傾圧不安定波)と下層の温帯高・低気圧は立体的に一体をなす構造を持つ代表的な大気擾乱である。この擾乱は傾圧不安定性を主たる要因とする傾圧不安定波で、寒・暖両気団が接する前線帯上に発生し、発達しながら温暖前線・寒冷前線を形成する。図7はこの大気擾乱の模式図である。低気圧前方の上昇流域では降水現象もあり、凝結熱の放出で低気圧発達に貢献している。低気圧の後方では下降流域では寒冷前線を発達させ降水現象を起こしている。

図7. 中緯度対流圏上層の傾圧不安定波と下層の温帯高・低気圧 (天気予報の技術より引用)

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https://marisuke.com/archives/13688

参考文献

天気予報技術研究会編   「天気予報の技術」      東京堂出版

小倉義光著    「一般気象学」          東京大学出版会

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