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線状降水帯
線状降水帯とは、「次々と発生する発達した積乱雲が列をなした積乱雲群が、数時間にわたって同じ場所に停滞したり同じ場所を通過することによって作り出される、線状に伸びる長さ50 – 300 km、幅20 – 50 km程の強い降水をともなう雨域」を示す気象用語である。
積乱雲が線状に次々に発生して、同じ場所を通過したり移動しながら大雨を降らす気象現象であり、特定の地域に多量の雨が長時間連続して降り続けるため、河川の氾濫や堤防決壊などの広域の災害をもたらす原因となっている。
線状降水帯が発生しやすい条件
線状降水帯も降雨現象の一つであり、発生原因として雨滴が大量に出来る条件が満たされることが必要である。
一般的に、雨滴が出来るには大気が過飽和の状態になる必要があり、①上昇気流を発生させる環境にあることが必要である。また、大量の雨滴が出来るには②大気中に大量の水蒸気が存在することも必要である。さらに同じ場所で豪雨が続いたり移動しながら豪雨を降らすには、③上記①②の条件が同じ場所で、あるいは移動しながら継続して満たされる必要がある。以下、それらについて少し詳しく記述することとしたい。
上昇気流を発生させる環境にあること
上昇気流を発生させる環境としては、まず山の斜面や大気の流れを収束させるなどの地形的なもの(図1、図2)がある。図2は高さのある二つの障害物(山や高層ビルなど)の間に大気の流れが収束される場合を示した図であるが、大気は収束されながら開放された空間である上方に向かう。すなわち水平収束がある場合にも上昇気流が生ずることとなる。
図2は物理的障害物で挟まれた場合の例であるが、それ以外にも大気圏下層の空気塊の衝突など対流圏下層が流れを収束する条件を満たした場合にも大気圏下層で水平収束は起こり、大気の上昇運動を引き起こす。
具体的な例として、一度山脈で分断された流れが山脈の後方で再び合流する 「日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)」が形成される場所や、西方の低気圧と東方の高気圧で挟まれる場所のように南方からの風(南風)が収束する場所なども上昇気流が起きやすい場所である。


次に上昇気流を発生させるものとして、大気成層状態が条件付不安定、絶対不安定であるなど大気の成層状態(鉛直方向の温度分布)によるものが挙げられる。すなわち、対流圏下層の温かい空気塊の上に冷たい空気塊があるなど、強い上昇気流を引き起こす状態に大気がなっている場合がある。

大気中に大量の水蒸気が存在すること
大量の降水を起こすには大気中の水蒸気量が多くなければならず、海面からの水蒸気の蒸発量を増大する地球温暖化は、今世紀に入ってからの降水量増大ばかりでなく、線上降水帯形成に大きな寄与をしていると考えられる。
エルニーニョ現象やラニーニャ現象は、大規模な海洋と大気の現象ではあるが、海面水温や大気下層の温度の東西方向の地域的偏りの変化を示す現象である。しかしラニーニャ現象に関して言えば、太平洋の西側、インドネシア近海の海面温度を上げるので、日本及び日本周辺海域における線状降水帯の発生の頻度を上げるものと考えられる。
同じ場所で豪雨が続いたり移動しながら豪雨を降らす条件が満たされること
同じ場所で豪雨が続いたり移動しながら豪雨を降らす線状降水帯が発生するには、水蒸気を大量に含んだ空気が継続して供給されることが必要である。それに加え、その空気が上昇して大量の雨滴が出来るよう、山の斜面や流れを収束する地形、条件付き不安定な成層、大気圏下層の空気塊の衝突や同方向の流れの収束など大気圏下層の水平面内における流れの収束などが一定時間(同一場所で、あるいは移動しながら)継続して存在することが必要である。
これらの点については、何れも上記説明と重なるので、ここで再度の説明をすることは省くことにする。
地理的条件が発生頻度を上げ、地球温暖化が降雨量を増大する
日本に関して言えば、東シナ海から伸びる湿舌(水蒸気を多量に含んだ大気)や同海域から北東進してきた積乱雲が最初にぶつかる九州地方は特に線状降水帯が発生しやすい場所である。
また、地球温暖化は海面温度を上昇させ大量の水蒸気を大気圏下層に供給し、今世紀に入ってからの降雨量を飛躍的に増大しているが、線上降水帯の降雨量も同様に増大させ、河川の氾濫や堤防の決壊などを日本の至るところで引き起こす原因である。
図4は、海面水温と湿舌および線状降水帯の位置関係を示したものである。


九州地方以外でも、狭いエリアに湿度の高い空気が継続して供給されれば線状降水帯は形成される。例えば山脈で分断された流れが山脈の後方で再び合流する 「日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)」が形成される場所や、西方の低気圧と東方の高気圧で挟まれる場所のように南方からの風(南風)が収束する場所、停滞前線周辺でも、湿度の高い空気が継続して流れ込めば線状降水帯が発生し、大量の雨を降らせ続けることになる。
熱波と山火事
この夏、北半球の多くの地域が熱波に悩まされている。ヨーロッパでは熱波および熱波による山火事が発生し、数百万人が脅威にさらされている。ポルトガル、スペイン、フランスでは山火事の影響で大勢に人が避難、イギリスでは、暑さで空港の滑走路が歪んでしまったり、ウェールズでは史上最高気温も記録されたりしている。

Joshua Stevens/GEOS-5/NASA GSFC/VIIRS/Suomi National Polar-orbiting Partnershipより引用
ヨーロッパ以外の地域でも、中国、北アフリカ、アメリカと、北半球のほとんどの地域で、 熱波および熱波による山火事が発生している。

熱波発生の原因
熱波発生の原因として第一に挙げられるのは地球温暖化による気温の上昇である。空気の乾燥も熱波発生の原因とはなるが、気温の上昇によって空気は乾燥(相対湿度が下降)するので、二次的な原因とも考えられる。
熱波発生のもう一つの原因として偏西風の蛇行が挙げられる。偏西風の蛇行は、偏西風の低緯度側(北半球では南側)と高緯度側(北半球では北側)の温度差が大きくなると、その温度差を緩和するように、低緯度帯で供給過多になった熱を低緯度側から高緯度側へ輸送をするため起こると考えられている。
地球温暖化による気温上昇
図8は世界各地の平均気温が、1960年から1990年の30年間の平均値に対して、2070年から2100年の30年間の平均値がどれだけ高くなるかを試算したものである。図の下部には上昇温度のスケールがあるが、海洋でもっとも高いのは日本近海で4℃から5℃、他のところでは高いところで3℃程度である。陸地の上昇温度は海洋よりも高く、南米赤道地帯では7℃以上、その他大陸でも5℃以上となるところが少なくない。
この試算結果は、1960年から2020年までに僅か0.6℃気温が上昇しただけで、昨今のような異常気象が頻発していることを考えれば、早急に世界規模で温暖化対策に取り組む必要があることを示している。

図9は、産業革命(人類が産業機械を使って生産を開始した時代)以降現在までの世界の平均気温の推移を示したものである。

空気の乾燥
気温が上昇すれば地球上の至る所で相対湿度は減少する。大陸の内陸部や砂漠、あるいは山の風下側でフェーン現象が発生しやすい場所などもともと空気が乾燥しやすい場所などでは気温上昇によって更に空気は乾燥する。
また、大陸上に居座る高気圧において上空の大気が暖かく乾燥している場合、高気圧内の下降流は、高度低下とともに乾燥断熱減率で昇温する(フェーン現象に同じ)ので、地表面の温度が高くなる。
以上のような条件下では、地表面温度が高くなるばかりか地表面を覆う下層大気の相対湿度は極度に低くなり、自然発火し易い環境となる。
偏西風の蛇行による暖気の北上
偏西風は地球の南北半球の中緯度帯に存在する偏西風帯に吹く風のことである。偏西風を起こす原因は低緯度側と高緯度側の気圧傾度(気圧の傾き)であり、温度傾度(温度の傾き)である。
気圧傾度で説明すれば、等圧面(気圧が同一の面)は低緯度側で高度が高く低緯度側で高度が低くなる。これは気体の状態方程式から、気温の高い低緯度側で同一質量の気体の容積が高緯度側より大きくなることから容易に理解できる。したがって同一高度で見れば、低緯度側のほうが高緯度側よりも気圧が高くなるわけである。緯度変化に対する気圧変化の率(気圧変化/緯度変化)を気圧傾度というが、気圧傾度は南北半球とも中緯度帯の中層・高層で大きいため、空気塊に作用する傾度力は中緯度帯の中層・高層で大きくなる。そして空気塊に作用する傾度力とコリオリ力が釣り合って、高圧(低緯度)側を右に見て等圧線に沿って空気塊が移動する(風が吹く)。これが偏西風であり、気圧傾度の大きい風速の大きな部分は特にジェット気流と呼ばれている。
低緯度側は気温に関しても高緯度側より高温であるが、気温傾度も中緯度帯の中層・高層で大きくなる。偏西風帯の低緯度側の気温は高く、高緯度側の気温は低くなっている。
偏西風を引き起こすのは気圧傾度力であるが、偏西風は東西方向に数千kmの波長で南北に波打っている。そして時間とともにその形を替えながら西から東へと移動している。
図10は200hPa(高さ約12km)の高さに、ニュージーランドから気球を浮かせてその軌跡を追跡したものであるが、気球は南北に蛇行しながら10日あまりで地球を一周している。しかし、その軌跡の1ヶ月平均をとると、蛇行は打ち消し合って、極を中心とした同心円に近い形となる。

しかし、偏西風の蛇行が形を変えず、また東へ移動もせず一定期間続くことがある。このような現象の頻度が最近増えており、各地で異常気象をもたらす原因になっている。
図11は2022年7月19日における北半球の偏西風の蛇行の様子を示したものであるが、欧州、カムチャッカ半島で大きく北に蛇行し、またカナダの東部で少し北に蛇行している。

すでに上で述べたが、北半球では偏西風の南側の気温は高く、北側の気温は低いため、偏西風が大きく北に蛇行したヨーロッパやカムチャッカ半島では暖気が流入し、夏季ならば酷暑、冬季ならば暖冬となる。また、偏西風が大きく南に蛇行した大西洋東側やユーラシア大陸の中央や東端、カムチャッカ半島東側の海域では寒気が南下し、夏季ならば冷夏、冬季ならば厳冬となる。
今年は、この偏西風がヨーロッパあたりで大きく北に蛇行し、暖気が大量に北上したため、ヨーロッパ各地で酷暑となり山火事が多くの国で発生した。図11の偏西風の蛇行をメルカトル図法の世界地図上に記したのが図12である。図中には偏西風を太い実線で、偏西風の蛇行において暖気が北上している地域をWで、寒気が南下している地域をCで示している。

地球の熱収支と熱バランスで見た場合、偏西風の蛇行は供給過多となった低緯度帯の熱を高緯度側へ輸送するために起こると見られている。
図12は低緯度から高緯度への熱輸送が何によって起こるかを示したものである。図12から、低緯度帯における高緯度への熱輸送は南北鉛直断面内循環(ハドレー循環)により、中緯度帯における高緯度への熱輸送は波動、すなわち偏西風の蛇行により行われていることがわかる。

そして、中・高緯度の上層の偏西風(ジェット気流)が南北に大きく蛇行する場合には、 地上では大規模な高気圧が停滞することがある(ブロッキング高気圧)。 このような状態になると、同じような気象状態が長期間継続して異常気象をもたらすことが多い。
偏西風の蛇行(波動の形)は通常は時間とともに東へと伝わるものであるが、蛇行が大きくブロッキング高気圧が発生すると、蛇行(波動の形)は一定期間移動せず、暖気が北上する偏西風の南側では気温が上昇する。湿度が低い地域ならば気温上昇に乾燥が加わり山火事などが発生しやすい条件を満たすことになる。
地球温暖化が偏西風の蛇行を大きくし、熱波や山火事を発生させる
地球温暖化は、全地球の気温を上昇させる点から、直接的に熱波や山火事の発生を起こす働きをする。
また、低緯度側から高緯度側へ輸送する熱量を増加させ、偏西風の大きな蛇行を引き起こす働きをする。
以上のことから、今温暖化対策に真剣に取り組まねば、世界各地で豪雨災害や熱波(副産物の山火事を含む)など自然災害の発生頻度が更に上がるばかりでなく、発生場所も地球規模で広がっていくことは容易に想像できる。
予測できない未来
このまま地球温暖化が止まらず北極海の氷が溶けた場合、低緯度帯と北極圏の温度傾度は小さくなり、低緯度と高緯度の気圧傾度が小さくなると予想される。その場合、北半球における偏西風帯の風速が小さくなることや、偏西風帯の緯度が変化することも考えられる。
また、北極圏の氷や山地の氷河が無くなることにより、地球のアルベド(地球が太陽から受けた熱エネルギーを反射する率)が小さくなり、地球温暖化をさらに加速させることになる。
このような状態に至った場合、地球環境が現在までと同質の変化(豪雨や熱波の頻度上昇、台風の大型化)をするだけで済むという保証はなく、どのようになるかは予測できないものと思われる。
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