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岸田内閣の原発(エネルギー)政策転換は国民不在の政策

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岸田内閣、国会の審議なく閣議のみで原発政策転換 

 2022年8月24日、官邸で開いたGX実行会議において、岸田首相は原発について(1) 福島事故後に稼働した10基に加え、7基を追加で再稼働すること、
(2)次世代革新炉を新増設すること、
(3) 原則40年、最長60年と定められている既存原発の稼働期間の延長
の3項目の検討をするよう指示を出した。そして、その指示からわずか4カ月後、同3項目を柱とした原発政策を決定し、東京電力福島第一原発事故から11年間、歴代政権がタブーとしてきた原発の新規建設をも閣議だけで決定した。

コロナ禍とウクライナ侵攻による日本のエネルギー危機

 コロナ禍で経済が低迷する中、2022年2月ロシアがウクライナに侵攻し我が国の発電方式の主力を占める化石燃料(90%以上輸入)の確保が難しくなった。そのような状況を追い風にし、原発反対派の矛先を躱すため、夏や冬の消費電力がピークとなる時期を乗り切るのに原発再開が不可欠であるように印象付け、国民に意思を問うことなく、国会でも審議せず、閣内の審議だけで(2011年の東電の福島原発事故以来タブーとされてきた)原発再開へとエネルギー政策を転換した。

カーボンニュートラルの時代要請

 一方、地球温暖化により、異常気象(台風の大型化、雨量の激増、山火事の発生、偏西風の蛇行)、海面温度や極地の気温上昇などが世界各地で多発するようになった。そして、地球温暖化対策として、カーボンニュートラルを世界の主要国が国策として取り組んでおり、我が国も2050年までに$CO^2$排出量を1990年比で80%削減とする目標を打ち出している。これは前政権が立てた方針であるが、化石燃料が調達しにくくなったという国際情勢の変化が我が国の原発推進をしやすくしたという側面がある。この岸田政権のエネルギー(原発)政策大転換は、日本の将来を左右する大問題であり、本来国会を解散して国民に信を問うべきものである。それでなくても国会審議くらいはあってしかるべきものであり、一内閣が閣議だけで決定すべきものではない。当時いくつかのテレビ局が取り上げたが、しばらくしてたち消えとなった。穿った見方をすれば政府や経済界から横槍が入ったのかもしれない。当時この問題を取り上げたテレビの報道をみてみよう。

岸田内閣の原発方針変更に関するテレビ報道から

羽鳥慎一モーニングショウ

 2022年11月30日に放映された羽鳥慎一モーニングショウでは、政府(岸田政権)の原発政策変更(上記した3項を含む)の問題が取り上げられた。
 政策変更の一つの柱が、従来原発の最長稼働年数60年(40年であったのが東日本大震災以降60年に延長)としていたのを、更に休止期間だけ延長可とし、60年以上の稼働を可能とした。(停止期間を稼働期間から除外)ことである。
 方針変更の表向きの理由は電力の安定供給であり、稼働可能原発の台数を増やすことにあるが、事故回避の安全担保という純技術的側面から決められた稼働可能年数を電力供給という経営的事情から変更するのは、国民の安全確保をないがしろにし、電力会社側の経営面からの要望に応えるために閣議で決定した感がある。また、原子力規制委員会の委員長が2022年10月に更田氏から山中氏に代わったばかりの時期を狙ったとも思われる。

 電力会社からすれば、原発1基あたりの稼働で1200億円の利益が出るとのことであり、さらに福島原発事故で東京電力が全責任を負わされなかったという前例もあり、原発再開は電力会社にとって美味しいだけの話である。経団連の会長に至っては、岸田首相より前から原発復活の必要性を折りに触れ主張していたが、日本の将来のエネルギー政策に関する他の発電方式には一切言及することがなかった。日本の将来の発展に資するよう我が国の産業界を導くという長期ビジョンを持たない、視野の狭い過去の人である感がして、技術者から見て寂しい限りである。

 同番組にコメンテーターとして出席していた「雑誌アエラ」の元編集長浜田氏は、岸田政権の原発復活を、電力会社の理論が復活したと述べ、
・原発のみに頼るから再生エネルギーへのシフトが進まないこと、
・3.11で明らかになった課題は未解決のままであること、
・核のゴミの問題も未解決のままであること
を問題点として挙げていた。さらに、岸田政権の原発再開を、日本のエネルギー政策方針の大転換であるから、国会での審議や国民の意識調査をした上で行うべきであり、閣議で決めることではないとも付け加えた。

クローズアップ現代

 2022年12月5日に放映されたクローズアップ現代では、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、原発の運転期間延長と新増設方針を打ち出した政府(岸田内科区)の政策について、ウクライナ紛争の結果LNG価格が5倍になり、東電は柏崎刈羽原発の再稼働に迫られている状況にあることなどがMCから紹介された後、原子力安全研究協会理事:山口彰氏(経産省、原子力小委員会委員長)龍谷大学教授:大島堅一氏(原子力市民委員会座長)が電力需要を満たすため原発再開が必要か否かについて異なる主張を展開していた。

山口氏 (経産省、原子力小委員会委員長) の主張

・原発の新規制基準(地震・津波等への対策強化、重大事故への対策新設、テロ対策新設)が設定され安全上問題はない、
・原発はエネルギー安定供給のため将来的(2050年頃)にも30%必要、
・フランスでは原発増設で2050年に原発依存度を50%にする計画である
という点にあった。

大島氏 (原子力市民委員会座長) の主張

・原発は安全とはいえない
・電力の予備率30%は冬場でも確保されており、原発の再稼働は不要
・東京電力福島第一原発事故の検証が未だきちんとされていない
・炉心溶融した福島原発の廃炉の工程が未だ示されておらず、現段階で新設を言い出すのは時期尚早
という点にあった。

以下、上記した点について、問題点を明確にしていこう

原発再開の問題点

原発稼働寿命延長の問題点

休止期間を単純に寿命延長できるとして良いか?

 機械を長期間停止した後再稼働する場合、組み上げた新しい機械を稼働する場合や、メンテナンスで休止した後すぐ稼働する場合と異なり、摺動部や配管などにサビが発生していないか、溶接部や応力が集中する箇所にクラック等が発生していないか、連結部にガタや隙間などが生じていないか等を念入りに検査し、然る後試運転をして問題が無いことを確認し、徐々に出力を上げながら段階的に本稼働に移る必要がある。これはボイラやタービンなどの蒸気機関、自動車、産業機械など駆動部や配管等を有する機械総てに共通することである。放射線の被ばくを受けていない一般の機械の場合においてすら必要なことである。

 原発の場合、圧力容器やタービンや配管などの冷却水系(特に一次冷却水系)は中性子や放射線の被ばくを受けており、このような場合、長期休止後の機械内部がどの様になるかについては過去のデータがなく、また、分解して被爆した内部の確認をすることも出来ず、どのように安全性を担保するかは難しい。被爆していない一般の機械の場合よりも腐食や損傷が酷いことは予想されるが、どのような状態かを分解して確認できないこと、過去のデータが無いことなどが問題を複雑かつ深刻なものにしており、簡単に再開出来るようなものではない。

 原発の稼働寿命40年は圧力容器が中性子照射を受けて脆性遷移温度が高くなることによる。鉄は常温では展延性を有しており、外力を受けて変形し、コンクリートやガラスのように割れたりすることはない。しかし、氷点下以下へ温度を下げていくと、展延性が低下し、ある温度以下では外力を受けてひび割れるようになる。即ち、展延性が失われ脆性を有する物質に変化する。この展延性が失われ脆性に変化する温度を脆性遷移温度といい、通常は氷点下以下の温度である。しかし、原発の圧力容器のように強力な中性子に晒されることによって、脆性遷移温度は徐々に上昇し、40年も経つと50℃を超えるような常温以上の温度まで上昇してくる。この脆性遷移温度が上昇した状態の圧力容器内の冷却水が原発事故で失われた場合、炉心が核分裂反応による温度上昇で溶融するのを防ぐため、海水など常温(脆性遷移温度以下)の水を大量に容器内に投入せざるを得なくなる。その場合、脆化した圧力容器に熱応力が作用し容器がひび割れたりする可能性が高くなる。圧力容器がひび割れたりすれば内部の核燃料(高レベル放射性物質)が外界に大量放出される危険性が大となる。これが原子炉の稼働寿命が設定される理由であり、純技術的な問題である。政治や経済的観点から変更できる筋合いのものではないわけである。

関連記事:https://marisuke.com/archives/1098

https://marisuke.com/archives/1094

休止原発の再稼働に対する専門家( 前原子力規制委員会委員長更田氏 )の意見

 2022年12月5日 クローズアップ現代 の番組内で前原子力規制委員会の委員長更田氏は、柏崎刈羽原発の再稼働の問題に対するのコメントとして、一度長期間停止した原発を再稼働することは、設計や建設段階で想定されておらず、再稼働にあたっては、最初の稼働時と同等、或いはそれ以上に細部まで念入りに調査することが必要であると述べている。

ヨーロッパ諸国との違

  2022年12月5日に放映されたクローズアップ現代の中で、原子力安全研究協会理事の山口彰氏(経産省、原子力小委員会委員長)は、 日本において原発はエネルギー安定供給のため将来的(2050年頃)にも30%必要とした上で、フランスでは原発増設で2050年に原発依存度を50%にする計画であると述べ、日本の原発増設がまだまだ少ないような印象を与える発言をした。しかし、 地殻構造が強く地震が少ないヨーロッパ諸国(フランス、ノルウエー等)がエネルギー危機対策として原発を推進することはさほど問題ないが、四つのプレートが打つかり合い地震が頻発する日本が原発を推進することを是とする理由とはならない。地中海周辺を除くヨーロッパと日本では地殻構造が全く異なるわけである。

 図1と図2は、1975年から1994年までの20年間に世界で発生したマグニチュード4.0以上の地震をプロットした図であり、図1は震源の深さが100km以下のもの、図2は震源の深さが100km以上のものを示している。図から明らかなように、西欧と日本では地震の発生頻度が大きく異なっていることは一目瞭然であり、原発推進において、フランスやノルウエイなどの西欧諸国と日本を同列に扱うことは間違っている。


図1. 震源の深さが100km以下 、マグニチュード4.0以上の地震
図2. 震源の深さが100km以上 、マグニチュード4.0以上の地震

関連記事:https://marisuke.com/archives/1035

福島原発事故処理未完了、核のゴミの問題未解決、次世代へ負の遺産を繰越し

 2011年3月11日起こった東京電力福島第一原発事故の被害者が未だ仮設住宅に暮らし、廃炉完了の目処すら立たず、冷却水の海洋投棄を決定するという住民無視の政策が当然のごとく行われている。また、原発のゴミ(高レベル放射性物質)の廃棄場が未だ定まらぬという現状において、当座の電力供給と電力会社の採算面だけから原発を推進するのは如何なものかと思われる。福島第一原発事故は、それまで起こらないと言われて来た原発事故が、高さ17mの津波によって電源損失が起こり発生した。
 地球の自然環境も大きく変動し、台風の大型化、集中豪雨や洪水、大規模な山火事など、自然災害も荒く厳しくなり始めている21世紀、予測不能などのような災害が起こるかもしれない。そのような状況下、脆弱な地殻で支えられ地震が頻発する日本では100%の安全性が担保されない限り原発は無いに越したことはない。電力需給のため一時的に原発に頼るとしても、将来頼らなくてもよくなるよう、同時に他の方法も選択出来るよう、新たな技術開発や技術革新を進めるべきである。それが次代の若者達に対する我々大人達の責務であろう。

原発政策に対する提言

 原発(エネルギー)政策は日本の将来に関わるものであり、一内閣が国民の審判もなく、国会審議もなく変更するものではない。喫緊のエネルギー事情で原発再開やむなしとしても、同時に原発に代わる(代わり得る)新たな技術開発に着手すべきである。また、原発の利点や必要性のみを強調するのでなく、事故発生時の危険性(想定される放射能汚染範囲、避難経路の確保と予想される人的被害)、経済的損失、電力会社の責任負担、原発の技術的問題点も洗いざらい明確に示し、エネルギー政策転換の是非を国民に問うと同時に国会で審議すべきものである。

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