2月入ってから強い寒気が大陸から日本列島へと流れ込み、北海道・東北・甲信・北陸などの雪国だけでなく、西日本の日本海側の広い範囲に大雪を降らせた。今年になって2度目の強力な寒波の到来である。21世紀に入った頃から、日本各地の降水量が増えているせいか、降雪量も増えており、鳥取などでは観測史上最高の積雪となった。
降雪量の増加に伴い、雪道の車の事故が多発しているため、冬期の車の運転に欠かせないスタッドレスタイヤの有用性と、ノーマルタイヤでの運転の危険性について記載した。
Contents
1.大雪による車の渋滞と事故
気象庁によると、上空に強い寒気が流れ込んで強い冬型の気圧配置になったため、鳥取市では積雪が91センチと昭和59年以来33年ぶりに90センチ以上を観測した。また鳥取県倉吉市でも2月としては統計を取り始めてから最も多い61センチの積雪を観測した。このほか兵庫県豊岡市で平年のおよそ4倍の73センチ、福井県敦賀市でも平年のおよそ4倍の53センチ、京都府舞鶴市で平年の7倍の49センチとなったとのことである。今回の寒波は、東北の日本海側や北陸、長野県でも大雪を降らせたばかりでなく、太平洋側の多くの場所にも雪を降らせた。この雪の影響で、西日本の日本海側を中心に、電車の遅れや運休ばかりでなく、車の大渋滞や玉突き事故が発生した。普段雪の降らない地域で雪が降るとスタッドレスタイヤ(冬用タイヤ)やチェーンを装備してない車も多く、またスタッドレスタイヤを履いていても雪道の運転に慣れていないドライバーも多く、スリップが原因とみられる事故が多発し易いものである。
2.雪国で安心な冬の運転
私事で恐縮であるが、学生時代にスキーを始め、35年間毎年スキーに行っていたせいもあり、冬季は車にスタッドレスタイヤを履かせている。真冬にスキー場、特に奥志賀や野沢温泉、あるいは乗鞍温泉あたりまで足をのばすと、スキー場近くの主要道路も完全に凍結していることがあり、全輪スタッドレスタイヤの四輪駆動車ですら、運転していて車が滑ることがある。滑り出した時のハンドル操作は一応身に付けているものの、凍結路面を滑りを完全になくして走ることは難しく、道幅が狭い場合、滑った時に対向車がいるかいないかで、事故になるかどうかの分かれ道となる。幸い今まで、雪道で一度も自分から他車にぶつけたことはないが、吹雪の凍結道路で後続車に二度ぶつけられたことがあり、車好きで雪道の運転は好きではあるが、雪の怖さも十分に知っている。それでも、山国や雪国では、冬はほとんどの車がスタッドレスタイヤを履いており、雪道の運転もそれほど心配なく運転することが出来る。
しかし、東京、大阪や名古屋のような大都会、あるいはめったに雪の降ることのない地域では冬にスタッドレスタイヤを履いている車は少なく、雪が降ってもチェーンも付けず、ノーマルタイヤで運転する車が結構いるものである。
3.雪道のノーマルタイヤ運転に対する罰則のゆるさ
さて、雪道における運転に関しては、各都道府県が道路交通法施行細則や道路交通法規則で、チェーン装着やスタッドレスタイヤの使用など、滑り止めの対策を規定してはいるが、上記違反に対する罰則の明確な規定が無く、過失割合が高くなるだけで普通の事故と同じように扱われるだけのようである。
4.車が雪の上で滑る理由
ここで、雪の上で車が滑る機構を考えてみるに、雪の上で車が滑り易いのは、タイヤと雪の間に水膜が出来ることに起因している。微視的に見れば、タイヤが水膜の上に浮いている状態にあるためである。雨で濡れた路面の場合は、最初路面を濡らしていた水膜は、車の重みでタイヤの溝を通して、接地面から排除され、高速で走らない限り、タイヤと地面が直接接することが出来る訳である。しかし、雪の場合は、車の重量による凝固点降下の影響で、水膜の水を排除しても、タイヤの下で雪が解け続けて新たな水膜が出来続ける。この水膜の出来続ける速度より早く、接地面から水を排除し続けるようにするため、スタッドレスタイヤはノーマルタイヤよりも多くの溝が刻まれていたり、水膜の水を吸収できるよう接地面をスポンジ状にしたりしている。
ノーマルタイヤの場合は、このような機能が無く、水膜の上にタイヤが乗っかっている状態で運転している訳であるから、危険極まりない。土砂降りの時、高速道路に出来た水たまりに高速で突っ込むと、タイヤが水の上に乗った状態(ハイドロプレーン現象)になりハンドルが利かなくなることがあるが、これと同じ理屈である。
5.雪道のノーマルタイヤ運転の危険性
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かように危険極まりない訳であるが、雪が積もっても、高速道路以外で警察がチェーンやスタッドレスタイヤの装着を点検している場面に出くわしたことはほとんど無い。また、雪道用の装備をせずに事故を起こしたとしても、上記したように、飲酒運転のように厳しい罰則がある訳でもない。事故を起こした本人は自業自得であろうが、巻き添えを食らった方はたまったものではない。チェーンも付けないノーマルタイヤでの雪道運転は飲酒運転と同様極めて危険なものである。止まり切れず、人や自転車を巻き込み、死亡事故につながる可能性だってあるし、車同士でも重大事故になる可能性は十分にある。
雪道での事故を未然に防ぐため、道路交通法を改正し、チェーンも付けないノーマルタイヤでの雪道における事故は、飲酒運転並みの罰則とするよう、道路交通法改正を望みたいものである。
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大気の温度と地上降雪の関係
以下の表のように、850hPa面と500hPa面の気温で地上降雪を判断している。
相当地上高 | 気圧 | 気温 | 判定 |
約1500m上空
(対流圏下層) |
850hPa | -6℃以下 | 雪 |
-3℃以下(地上2℃以下) | |||
5~6km上空
(対流圏中層) |
500hPa | -35℃以下 | 大雪 |
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凝固点降下
固体が液体に相変化する温度(融点)が圧力の上昇によって下がる現象を言う。一気圧(760mmHg)における氷が解ける温度は0℃であるが、気圧が高くなると0℃以下で溶けるようになる。氷の上でアイススケートが滑ることが出来るのも、凍結道路で車のタイヤが滑るのも、接氷面積の小さい個所に前者は体重、後者は車重がかかって接氷点の圧力が高くなり、融点が下がり0℃以下で氷が解け水膜を作るためである。
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