湿り空気塊が山の斜面などに沿って上昇したり、対流雲によって上昇すると気温が下がり飽和水蒸気になって空気塊中に水滴や氷晶が出来始め雲が発生する。大気中における水蒸気の凝結がどのように起こるか、凝結において大きな役割を果たしている凝結核とはどのようなものであるかについて記載した。
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水滴の生成
湿り空気(水蒸気を含んだ空気)の温度を下げていくと、飽和水蒸気密度も下がるため相対湿度が上がり、ある温度で相対湿度が100%に達する。さらに温度を下げていけば、余分な水蒸気は凝結し、温度が氷点以上のときは水滴ができるはずである。
過飽和度
実際には塵や埃など凝結核となる小さな粒子を含まない空気中では、相対湿度が100%を越えても水滴はなかなか出来ない。これは水の表面張力が邪魔をするからである。ある温度で飽和水蒸気密度を超えて水蒸気の凝結が起こらないときの水蒸気密度をE、飽和水蒸気密度をEsとするとき、100×( E-Es )/Esで表される数値を過飽和度という。
過飽和度= 100×( E-Es )/Es
ある温度の飽和水蒸気密度Esというのは、水の表面張力が問題とならない表面が平面(r=∞、水滴の半径が無限大)のときの飽和水蒸気密度のことである。
過飽和度、相対湿度と水滴径の関係
空気中の水滴の半径をrとするとき、その水滴の体積V、表面積Sは
V=( 4/3 )×πr(3)
S=4πr(2)
で表される。上式でπは円周率パイを、r(3)はrの3乗を、r(2)はrの2乗を表す。
ここでrがdrだけ増加したときの体積Vの増加分をdV,表面積Sの増加分を
dSとする。上式それぞれをrで微分し、級数展開した後、高次の微小項を0とすれば
dS/dV=2/r
となる。この式から水滴の体積の増加量dVが同じとき、表面積の増加dSは半径rに逆比例することがわかる。これより、径の小さい水滴ほど表面積の増加が大きく、大きな表面張力に逆らって水滴内に水蒸気が溶け込みにくいことがわかる。

図1は、気温5℃において、平面の水に対して平衡状態にある純粋の水滴の半径と相対湿度および過飽和度の関係を示したものである。平衡状態とは 微視的には水滴から離脱する水分子と水滴に入り込む水分子が 同数で釣り合っているということであり、巨視的には水滴が消えない(蒸発しない)ことである。
図1から半径が2μm以上の水滴は 過飽和度0 ( 相対湿度100% )で存在し得るが、水滴半径が小さくなるほど過飽和度が高くないと存在できない(蒸発してしまう)ことが見て取れる。水滴半径0.01μmの場合過飽和度12%(相対湿度112%)を超えなければ水滴として存在できないことがわかる。
エアロゾルと凝結核
前項での議論は、塵や埃などが浮遊していない空気中でのことであり、水滴は純水であるとしての議論である。実際には大気中にはいろいろな微粒子が浮遊している。これを総称してエアロゾルといい、その大きさによって次のような3つのグループに分類されている。
①半径0.005~0.2μmのエイトケン核(Aitken nuclei)
② 半径0.2~1μmの大核
③半径1μm以上の巨大核
エアロゾルのもとは、地表から吹き上げられた土壌粒子、海面の飛沫から形成された海塩粒子、火山噴火によって大気中に放出された粒子、人間の経済活動によって大気中に放出された汚染粒子などである。 さらに大気中の微量ガス・塩素・亜硫酸ガス・アンモニア・オゾン・酸化窒素などから大気中で光化学反応によって形成された微粒子も含まれる。
エアロゾル数は場所によって異なり、おおよその目安として1立方メートルあたり海洋上で 10(9)個、陸地で10(10)個、市街地で10(11)個くらいである。ここで()内の数値は指数を表す。
エアロゾルの数について見ればエイトケン核が一番多いが、質量で見た場合には大核が大部分を占めている。これらエアロゾルの中で、もや・霧・雲の発生に関しては、吸湿性のある水に溶けやすいエアロゾルが最も重要である。
図2は、 食塩が溶けている液滴の液滴半径と過飽和度の関係を示したものであるが、曲線1は10(-19)kgの食塩を含む場合、曲線2は10(-18)kg, 曲線3は10(-17)kg、曲線4は10(-16)kgの食塩を含む場合を示している。

例えば、曲線1によれば、 10(-19)kgの食塩が半径0.05μmの水滴に溶けていれば、その溶液滴の飽和水蒸気圧は純水の水平面の飽和水蒸気密度の90%である。すなわち、10(-19)kgの食塩粒子を相対湿度90%の空気中に置くと、食塩粒子は溶けて半径0.05μmの液滴として平衡状態を保つことがわかる。空気の過飽和度が0.2%のときには、半径0.12μmの液滴として平衡状態を保つことがわかる。
次に、曲線1でピーク値(過飽和度0.36%、液滴半径0.2μm)の左側にある液滴を考える。この液滴から蒸発が起こり半径が減少した場合、対応する過飽和度はさらに小さくなければならないが、空気中の過飽和度は変化しないため液滴表面に水蒸気が凝結して元の半径に戻そうとする。逆にこの液滴に水蒸気が凝結して半径が増大した場合、 対応する過飽和度は大きくなければならないが、空気中の過飽和度は変化しないため液滴表面から水蒸気が蒸発して元の半径に戻そうとする。 したがって、曲線1でピーク値(過飽和度0.36%、液滴半径0.2μm)の左側にある液滴の場合、まわりの空気の相対湿度が変化しない限り液滴の半径は変化しない。この状態が靄(もや)とよばれるものである。
上記と異なり曲線1でピーク値の右側にある液滴に水蒸気が凝結して半径が増大した場合、対応する過飽和度は0.36%より小さいためさらに水蒸気が凝結して液滴の半径は増大し続ける。そして急激に成長し雲粒を形成するようになる。
参考著書
小倉義光著 一般気象学 東京大学出版会
本記事中の図は上記引用文献から引用した。
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