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氷晶の芽の生成と氷晶核
大気の温度が低くなると、大気中には水滴だけでなく氷晶が形成されるようになる。大気中において氷晶の芽が生成される場合として、次のような場合がある。
①大気中の水滴は0℃以下でも液体の状態を保つ(過冷却水)。エアロゾルを含まない純水の過冷却水は、温度が-33~-41℃の範囲にならないと凍結しない。言いかえれば凍結しにくい純水であっても、-40℃になれば液滴として存在できず、氷晶の芽が生成されることになる。すなわち、-40℃以下の雲は氷晶で出来ている。
②過冷却の水滴がある種のエアロゾルと接触して凍結する場合。
③過冷却水滴中に含まれるエアロゾルが核として作用し凍結させる場合。
④ある種のエアロゾルに直接水蒸気が昇華して氷晶の芽を作る場合。
上記①~④のいずれの場合においても、氷晶生成の原因となるエアロゾルを氷晶核という。
氷晶核が機能する温度と氷晶核の浮遊数
氷晶核が機能する温度は氷晶核によって異なる。大気中に存在する氷晶核の数は場所によって異なるが、一般的に氷晶核は凝結核より数が少ないことが知られている。
-10℃で有効な氷晶核の数は10個/m(3)、-20℃で有効な氷晶核の数は10(3)個/m(3)のオーダーである。ここで()内の数値は指数を表し、10(3)は10の3乗を、m(3)は立方メートルを表している。
有効な氷晶核の例として、中国大陸の土壌粒子のカオリナイトは-9℃で氷晶核として機能し、黄砂も-12~-15℃で氷晶核として機能し、火山灰も-13℃で氷晶核として機能する。人工の氷晶核であるヨウ化銀(AgI)は零下数℃で有効となる。
(補足)ヨウ化銀
人工降雨を起こす場合に使われる化合物。雨雲の中にヨウ化銀の粉末を凝結核として散布し、降雨を起こしやすくする。
雲頂温度と氷晶出現率
世界各地における観測結果から、雲頂の温度が0℃から-4℃にある雲ははとんどが過冷却の水滴で構成されていることが知られている。過冷却の水滴は不安定であるため、航空機などの翼に衝突すると翼に凍りつき航空機の重量を増すとともに揚力の低下を招く。したがって、雲頂の温度が0℃から-4℃にあるような雲 の中では着氷の危険性が高く、航空機の翼に加熱器がついていない時代には、着氷による航空機事故が発生した。リンドバーグが大西洋横断に挑んだときも、着氷の危険に晒されたことは多くの人の知るところである。
雲頂温度が-10℃の雲では氷晶の検出確率は50%、雲頂温度が-20℃より低い雲では95%以上が氷晶であることが知られている。
氷晶と氷晶核の数の意外性
氷晶と氷晶核の数を測定すると、氷晶の数のほうが氷晶核の数よりも多い。雲頂温度が-20~-30℃の雲では、氷晶は氷晶核の10倍から100倍多い。雲頂温度が-5~-10℃の雲では、 氷晶は氷晶核の1000倍から10000倍多い。
氷晶と氷晶核の数の測定は困難であり、測定精度に問題があるが、それだけでは上記結果の説明はできず、氷晶自身に自己増殖作用があると考えられている。
氷晶は壊れやすく落下の途中で多くの破片に分裂すること、大きな過冷却水が凍結するとき氷の欠片が飛び散り、多くの細かな氷晶が出来ることなどが考えらる。
氷粒子の成長
水面と氷面との飽和水蒸気圧の違い
氷点下の大気中に水滴と氷粒が存在するとき、それらの飽和水蒸気圧および飽和水蒸気密度が異なることに注意する必要がある。これを具体的に説明するため下表に過冷却状態の水と氷の飽和蒸気圧および飽和蒸気密度の温度依存性を示した。表の左端が大気の温度(℃)を、左端から2列目と3列目が飽和蒸気圧(hPa)を、4列目と5列目が飽和蒸気密度(g/m(3))を表している。また、 左端から2列目と4列目が過冷却水に関する値を、 左端から3列目と5列目が氷に関する値を記している。
表から明らかなように、氷点下の温度においては水面に対する飽和蒸気圧(飽和水蒸気密度)は氷面に対する飽和蒸気圧(飽和水蒸気密度)よりも高い。これから、過冷却水滴と氷粒が混在する雲の中では過冷却水滴に対して空気は飽和状態にあり、氷粒に対しては過飽和となる。
したがって、 過冷却水滴と氷粒が混在する雲の中では、水滴よりも氷粒は速く成長する。
表1. 過冷却状態の水と氷の飽和蒸気圧および飽和蒸気密度の温度依存性

ただし、氷粒は様々な形をしており氷粒子に捕獲された水分子は氷の結晶構造の中に配列されていくので、雹粒の成長過程は水滴に比べ複雑である。
氷粒子は以下に示す3つの過程によって成長する。
水蒸気の昇華による成長
大気中に水蒸気が直接昇華して氷粒となり、氷粒がさらに昇華によって成長する。水蒸気の昇華によって成長する氷晶は、図1に示すような雪の結晶となる。雪の結晶の形には様々なものがあるが、基本的には柱状(prism like)のものと板状(plate like)のものに分類される。これを晶癖(crystal habit)という。図1左上段は角柱、左中段は骸晶角柱、左下段は釘、右上段は厚角板、右中段は扇形角板、右下段は樹枝である。

柱状になるか板状になるかは、その結晶が成長しているときの温度に依存する。図2は雪の結晶の晶癖の形と温度の関係を示した図であるが、0~-4℃の範囲では板状、-4~-10℃の範囲では柱状、-10~-22℃の範囲では板状、-22~-40℃の範囲では柱状である。 晶癖の形の温度依存性に加え、同じ温度範囲でも空気の過飽和度によって成長の型が異なる。これを図3に示す。


過冷却雲粒の補足による成長
過冷却水滴と氷粒子が共存している雲の中で過冷却水が氷粒子に衝突すると、水滴は氷粒子の上に凍りつき、氷粒子の質量が増加する。この過程をライミング(riming)という。水滴がゆっくり凍りつく場合、水は氷表面に薄く広がって凍る。急速に凍結する場合には、水滴は氷面に丸い氷粒となって残る。雲粒が凍結して氷粒子の質量が増加すると落下速度も大きくなり、多くの雲粒を補足して霰( あられ )となる。このあられが積乱雲の中で上昇下降を繰り返し発達したのが雹(ひょう)である。
凝集による成長
氷粒子の落下速度が違うと、氷粒子同士が衝突し付着して氷粒子の質量が増加する。氷粒子の落下速度はその形や大きさによって異なり、氷粒子同士が衝突し付着する割合は氷粒子の形や温度によって異なり、温度が高くなるほどその割合は増加する。これは水滴の併合過程による成長に相当するものである。氷粒子の凝集による成長は、温度が-5℃より高い場合付着する確率が高くなり、柔らかいぼたん雪になる。
雲の分類
層状の雲
雲は現れる高度と形によって表2のように分類される。層状の雲は安定な成層をした大気が広い範囲にわたって上昇する場合に発生する雲である。中緯度帯で典型的なのが温帯低気圧に伴う層状の雲である。温帯低気圧が西から接近(温帯低気圧は西から東へと移動)してくる場合に地上で最初に見られるのが巻雲である。高度約9kmくらいに出来、数ミリ位の氷粒で出来ている。温暖前線がさらに接近すると、薄い巻層雲が現れる。巻層雲の中には六角形の氷粒があり、太陽光がその氷粒を通過する際屈折し、太陽のかさが現れることがあり、低気圧接近の前兆として知られている。次に高層雲が現れるが、雲の層の厚さも2~3kmあり、雲底も低く、空は灰色の雲で覆われる。高層雲の厚さがさらに増し雲底が地表面に接近してくる(乱層雲に入ると)と雨が降り始める。図4はこの様子を示 したものである。
表2.雲の種類

ここまでが温暖前線の通過するまでの雲の変化であり、これら層状の雲の広がりは何百キロメートルの範囲に及んでいる。

対流雲(積雲系の雲)
鉛直方向に発達する積雲系の雲は、条件付き不安定な成層をしている大気中で暖かく湿った空気が上昇するときに発達し、対流雲とよばれる。積雲が発達して積乱雲になる場合、雲頂高度1万メートル以上に達する場合もある。発達した積乱雲の雲頂が白く光り輝いているのは氷粒子が太陽光を反射しているからである。衛星写真で見た場合、赤外画像では地上と同様反射光を捉え真っ白く写り、赤外画像でも雲頂温度が低く放射量が低いだけでなく、雲厚が大きいため地上放射を遮るため真っ白く写る。このような雲画像の場合、地上では集中豪雨や雷雨になることが多い。
温帯低気圧が東進する場合、温暖前線の後からやってくる寒冷前線が地表面を通過する際対流雲が発達することが多く、雷雨で雹が降ったりすることもあり、寒冷前線の通過によって地表温度は急に低下する。
寒冷前線通過に伴う対流雲の広がりは数十キロメートル程度の狭い範囲である。

参考文献
①小倉義光著 「一般気象学」 東京大学出版会
②天気予報技術研究会編集 「天気予報の技術」 東京堂出版
本記事の図表は上記①の参考文献から引用しました。
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