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車輪の脱落事故|ホイールナットの緩みの原因は?右ねじ左ねじの違いは原因するのか?

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車輪の脱落事故|ホイールナットの緩みの原因は?右ねじ左ねじの違いは原因するのか?

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タイヤ・ホイールの脱落事故の原因

 近年、大型車の車輪(タイヤ・ホイール)脱落事故が急増している。平成23年に11件だった大型車の車輪脱落事故は令和2年には131件発生と12倍になっている。自動車の車輪(タイヤ・ホイール)は、自動車のハブ(自動車本体の車軸端末部分)にホイールナットで締付けられており、車輪の脱落はホイールナットが緩んで外れることに起因している。
 したがって、車輪脱落事故の対策としては、ホイールナットが緩んで外れたりすることのないようにすればいいということになる。

ナットの緩み防止

ホイールナット(以下、ナットと記述)の締付時の注意

 ホイールナットを車軸のハブに取り付けるときの手順と注意点は以下に記載する。
①ホイールをハブに取付ける(すでにホイールが取付けられており、ナットを付け替える場合はこの手順は省略)
②ホイールをハブに押さえた状態で、 手締めでナットを回しボルトにつける
③最初につけたナットの対角線上のナットを②と同様の手順でつける
④残ったナットを上記②から③を繰り返して順次つけていく
⑤トルクレンチを用いて、仮締めしたナットを、②から③でつけた順序で締めていく。締付けトルクは自動車メーカー推奨値で行う。
 この手順で大切なのは③④である。全てのナットが均等な力でホイールを固定するため必要な極めて重要な作業である。

ナットの緩み防止法1

 車のホイールは、ホイールの穴部をハブのボルトに通し、ナットで締付けて固定するが、ナットは車の走行中に作用する力や振動によって締付け力が低下し緩み易くなってくる。これは車に限らず、機械装置全般においてボルトとナットで固定した場合、作用する力や振動によってナットは緩み易くなる。機械工学においてナットの緩み防止は重要な問題であり、図1に示すようにナットの緩み防止には様々な方法がある。

図1.ナットの緩み防止の例

 ただし、図1に示すナットの緩み防止法は、着脱を頻繁に行うのに不向きであったり、ボルトの長さを長くする必要があったりするため、車のホイールでは使われていない。車ではタイヤ交換のたびナットの着脱が必要であり、また、回転するホイールの突起物は安全上小さくしたいからである。

ナットの緩み防止法2( 増締め )

 機械装置で行うナットの増締めとは、可動部の部品をボルトとナットで締め付け、一定時間運転した後、再びナットを締め付けることである。これは、ボルトとナットの接触面が、作用する力や振動により、微視レベルで塑性変形し、締付け力が低下し、ナットが緩みやすくなるからである。ボルトとナットの接触面(ネジ面、ボルト座面と固定片との接触面、ナットと固定片との接触面)は巨視的(視覚レベル)には凸凹のないネジ面に見えるが、微視的には図2に示すような細かな凹凸のある面であり、先端の微小突起部(図2の$B_1$点、$B_2$点)は作用する力や振動により塑性変形し、締付け力が低下する。この先端部の塑性変形を(機械装置を一定時間作動させ)出し切った後、ナットを締め直すのが増締めである。

図2.接触面の状態(微視レベル)


 車においては、タイヤの取付や交換後50 km~100kmほど走った後、ナットを締め直す必要がある。これがホイールナットの増締めである。これによってナットが緩みタイヤが脱落することを防ぐことができる。

ナット締付時におけるその他の注意点

 ナット締付時(初回、増締時共通)におけるその他の注意点としては以下のことがある。

・ホイールナットを指定のトルクできちんと締め付ける(トルクレンチを使う)。
・スチールホイールからアルミホイールに交換する際などは、指定されたホイールボルト、ナットを使用し、種類を間違えないようにしっかり確認する。
・ホイール穴やホイールボルト・ナットの締付け面やネジ面に錆がないか確認する。
・ホイールを締付けた後、ホイールナットから出ているホイールボルトの量が均等であるか(出っ張っている量に不揃いはないか)確認する。

ボルトとナットの力学

ネジの基礎

 ボルトとナットの組合せをねじ継手というが、ナットの緩みを説明するのにネジに関する用語を用いるため、ここでネジに関する用語を図3を用いて説明する。

リード($l$):ナットを1回転したときにナットがボルトの軸方向に進む距離
条数($i$): 1リード中のネジ山(谷)の数
ピッチ($\dfrac{l}{i}$):ネジ山(谷)から次のネジ山(谷)までの距離
谷径($d_1$): ボルトの谷の径
山径($d$):ボルトの山の径
有効径($d_2$):ネジ山の溝幅が山幅に等しい仮想円柱の直径
ねじれ角($\arctan\dfrac{l}{πd_1}$)
リード角( $\arctan\dfrac{l}{πd_2}$ )

図3.ネジで用いる用語の定義

摩擦角

 摩擦角とは、物体を載せた面を徐々に傾けていくとき物体が滑り始めるときの斜面の水平面に対する角度をいう。
 いま、図4で重さWの物体を載せた面を傾けていったとき、斜面の水平面に対する角度が$ρ$のときに物体が滑り始めたとする。このとき$ρ$を摩擦角という。図4の状態で物体の重さWは、斜面に垂直な方向成分が$Wcosρ$、斜面に平行な方向成分が$Wsinρ$である。このときの摩擦係数を$μ$で表せば、

$μ=\dfrac{Wsinρ}{Wcosρ}=tanρ$  ・・・(1)

図4.摩擦角

この摩擦係数は、接する2つの物体の材質、表面粗さ、物体間の潤滑剤の有無などによって異なる値を取る。

ナットの締付けトルクと緩みトルク

 図5は固定物(図の圧縮体)をナットで締付ける場合の模式図である。ボルトとナットはリード角$β$のネジ面で接しており、ナットを右に回して締め込んでいくとき(図で力$P$を左向きに作用させるとき)、ナットから圧縮体に力$Q$が加わる。ネジ面の摩擦角が$ρ$であるとして力の釣合いを考慮すれば、

$P=R\sinγ =R\sin(β+ρ) $
$Q=R\cosγ=R\cos(β+ρ) $

であるから、

$P=Q\tan(β+ρ)$    ・・・(2)

となる。

図5.ナットの締付力

 図5でナットを緩める場合は、 $P$を右向きに作用させればよい。ネジ面の摩擦角は同じ$ρ$である。摩擦力が$P$と反対方向に作用することを考慮して力の釣合いを考えれば、

$P=R\sin(ρ-β) $
$Q=R\cos(ρ-β) $

であるから、

$P=Q\tan(ρ-β)$    ・・・(3)

(3)式より摩擦角より摩擦角$ρ$よりリード角$β$の方が大きいとき、すなわち$ρ<β$のとき、$P$は負値となり自然に緩む。

(2)、(3)式より、ネジの有効半径を$r$とするとき、締付けトルク$T$と緩めトルク$T’$はそれぞれ、

$T= Qr\tan(β+ρ)$   ・・・(4)
$T’=Qr\tan(ρ-β)$   ・・・(5)

$β、ρ$はいずれも正の値であり、$tan(β+ρ)>tan (ρ-β) $である。

 したがって、締付けトルクより緩みトルクの方が小さいことがわかる。さらに $ρ<β$のとき、$P$は負値となりナットはトルクを与えなくとも自然に緩む。

ナットの締付力を低下するボルトに作用する軸方向の力

 図6は、固定物(図の圧縮片)をボルトとナットで締付けたとき、ボルトとナットに生ずる力と歪の関係を示した図である。縦軸がボルトと圧縮片に作用する荷重を表しており、O点が原点で上方に行くほど荷重が大きいことを示している。横軸は歪を表しているが、ボルトの歪($ε_B$)はO点が原点で右に行くほど歪み(伸び歪)が大きいことを示しているが、圧縮片の歪 ($ε_A$) はC点が原点で左に行くほど歪み(圧縮歪)が大きいことを示している。ここで歪(ひずみ)とは単位長さあたりの変化量をいう。 直線ODはボルトに作用する力(引張力)が増大するに連れ伸び歪$ε_B$が大きくなることを示しており、直線CDは圧縮片に作用する力(圧縮力)が増大するに連れ圧縮歪$ε_B$が増大することを示している。直線ODよりも直線CDの方が傾きが大きい($α_B<α_A$)のは、ボルトのばね定数よりも圧縮片のばね定数の方が大きいことを示している。

 いま、基台に固定されたボルトに圧縮片を通しナットで締付ける場合を考えよう。ナットが圧縮片に接した段階(図6のO点)ではボルトにかかる引張力、圧縮片にかかる圧縮力はともに0である。ここからナットを回して圧縮片に圧縮力$P_0$がかかるところまで 締め込んだとする。このときの状態が図6のD点であり、ボルトには引張力$P_0$が作用する。このときのボルトの歪み(伸び歪$ε_B$)は図のOEで表され、圧縮片の歪(圧縮歪$ε_A$)は図のECで表される。すなわちD点は力$P_0$で固定物を固定したときのボルトにかかる力と歪、 圧縮片にかかる力と歪の状態を示している。

図6.締付時にボルトとナットに作用する力

 次に、この釣合いの状態(図のD点)から圧縮片を通してボルトに力(引張力)が作用し、ボルトの歪がOEからOFに変化(EF分増加)した場合を考える。このときボルトに掛かる力は$P_0+P_1$(図6の直線ODの延長線とF点から上方に伸ばした直線の交点の示す荷重)となる。ボルトの歪が増加したEFだけ圧縮片の歪は小さくなり、圧縮ひずみはFCとなり、圧縮片に作用する力(ナットによる締付力)は$P_3$となる。ボルトに掛かる力が更に大きくなれば、F点はC点に近づき$P_3$は0に近づく。 ナットが圧縮片に及ぼす$P_3$が0に近づけば、圧縮片からナットに作用する反力(大きさが$P_3$と同じで反対方向に働く力)も0に近づき、ナットは僅かな力で緩むようになる。

タイヤホイールの脱落原因の力学的把握

 以上見てきたことを総合し、タイヤ脱落の原因を力学的に検討する。ただし、実際の力学的な解析においては材料素材の強度特性、ボルトの軸破断など多くの要素が絡み合うため、本記事では車の走行時に生ずるナットの緩みに焦点を当てて記述することにしたい。

 さらにタイヤ脱落事故の原因として挙げられている一つにナットのネジ方向の問題がある。従来、トラックのホイールナットは右側が正ネジ、左側が逆ネジを使っていたが、現在は車両総重量10t以上の大型車と中型車の10穴もしくは8穴ホイールは、ISO規格が適用されで全輪で正ネジを使用するようになっている( 中型車、小型車で6穴もしくは5穴ホイールはJIS規格が適用され、従来どおりの右側は正ネジ、左側は逆ネジを使っている )。さらに、ホイール脱落は左側後輪が95%と圧倒的に多く、この逆ネジ採用が関係しているのではないかとも言われている。

車の加減速がナットに及ぼすトルク

 この項では車の加減速がホイールナットに及ぼす影響について考えることとし、図7のような加減速で車を走らせた場合を取り上げる。停止していた車を時刻$0$から一定加速度$a_1$で加速し時刻$t_1$で速度$V_m$に達し、その速度(一定速度)で時刻$t_2$まで走らせた後、 時刻$t_2$から一定加速度$a_2$で減速し時刻$t_3$で速度$0$で停止するとする。
 図8にはタイヤホイールとホイールナットを示したが、タイヤホイールが1回転するとタイヤホイールに固定されたホイールナットは、ホイール軸まわりに回転しながらナット自身もナットの軸まわりに1回転する。本項ではナットの緩みに限定して考えるのでホイール軸まわりの回転を無視すれば、ホイールナットはホイールの回転によって、ホイール回転方向と同じ向きに回転トルクを与えられる。したがって、図8が車の左側(右側)のホイールである場合、車の前進によってホイールが$B$方向( $A$方向 )に回転すれば、ホイールナットも$B$方向 ( $A$方向 ) に回転する。

図7.加減速曲線

 いま、速度$V_m$を時速$60km$とし、$t_1$を15秒、$(t_3-t_2)$を10秒とする。タイヤ外形$D$を$195cm$とすれば、$πD=612cm$であるから$V_m$に対応する角速度$ω_m$は、

$ω_m=60×10^3÷3600÷6.12×2π=17.1\dfrac {rad}{s}$

となる。 したがって、時刻$0$から時刻$t_1$まで$15$秒間の角加速度が一定とすれば、角加速度は、

$ \dfrac{dω_a}{dt} =17.1÷15=1.14 \dfrac {rad}{s^2}$ ・・・(6)

 同様にして、 減速時 $(t_3-t_2)$間($10$秒間)の角加速度を 一定とすれば、角加速度は、

$ \dfrac{dω_b}{dt}=17.1÷10=1.71 \dfrac {rad}{s^2}$ ・・・(7)

図8.タイヤホイールとホイールナット

ホイールナットの慣性モーメント

 六角柱の慣性モーメントは $I=\dfrac{10}{3 \sqrt 3} γhb^4$ であり、円柱の慣性モーメントは $I= \dfrac{1}{2} πγhr^4$ である(https://marisuke.com/archives/10965)から、ホイールナットの慣性モーメントを求めるには、中実の六角柱の慣性モーメントからナット穴径の円柱の慣性モーメントをマイナスすればよい。ここでγはナット材質の密度(比重ではない)、hはナットの厚さ、bはナット対辺間の距離の$\dfrac{1}{2}$を$r$は円柱の半径を表している。

 ハブボルトの径を大型車両に使われる$M22$とすれば、NKS単位系で統一して$b=1.65÷100(m)$であり、$r=1.1÷100(m)$、$h=2.7÷100(m)$、$γ=7.85×10^3(\dfrac{kg}{m^3})$であるから、これを用いてホイールナットの慣性モーメント$I_w$を求めると、

$I_w=\dfrac{10}{3 \sqrt 3} 7.85×2.7×1.65^4 ÷10^7- \dfrac{1}{2} π×7.85×2.7×1.1^4 ÷10^7 $ ・・・(8)

これを計算すれば、ホイールナットの慣性モーメントは、

$I_w= 2.53÷10^5kgm^2(MKS単位系)$ ・・・(9)

となる。

車の運転時にホイールナットに作用するトルク

 図7の運転によってホイールナットに作用するトルクを求めてみよう。

 一定速度$V_m$で走行中は角加速度も一定であり、車の走行がナットに及ぼすトルクは$0$である。

 $t=0$から$t_1$までの加速中は、角加速度 $ \dfrac{dω_a}{dt}=1.14 \dfrac {rad}{s^2}$である。車の左側の車輪の場合、 慣性モーメント $\dfrac{2.53}{10^5}kgm^2$ のナットに図8の$A$方向(右回り)に慣性力によって与えられるトルクは、

$1.14 \dfrac {rad}{s^2}×\dfrac{2.53}{10^5}kgm^2= \dfrac {2.88}{10^5}Nm$

 $t=t_2$から$t_3$までの減速中は、角加速度 $ \dfrac{dω_a}{dt}=1.71 \dfrac {rad}{s^2}$である。車の左側の車輪の場合、 慣性モーメント $\dfrac{2.53}{10^3}kgm^2$ のナットに 図8の$B$方向(左回り)に慣性力によって与えられるトルクは、

$1.71 \dfrac {rad}{s^2}×\dfrac{2.53}{10^5}kgm^2= \dfrac {4.32}{10^5}Nm$

 大型車両のホイールナットの規定の締付トルクが$600Nm$であることを考えると、車の加減速によりナットに作用するトルクは何桁も小さい値であり、微視レベルの座屈や想定外の外力によってナットの締付けトルクが低下していない限り、直線走行によるナットの緩みは起こらないものと思われる。したがって、一定距離走行後の増締めはナット脱落防止に大いに効果のあるものである。

車がカーブを曲がるときにナットに作用する力

 この項では車がカーブを曲がるときにホイールナットに生ずる力を取り上げる。図9に示すようにホイールはハブボルトにナットで締付けられている。大型タイヤの質量は1個あたり約90kg、ハブボルトおよびナットのサイズはM22、ホイールの板厚は13mmとする。また、1個のホイールのホイールナットは10個であるとする。

・タイヤ1個あたりの質量:90kg
・タイヤ1個あたりのホイールナット数:10
・スチール製ホイール板厚:13mm
・ハブボルト(ナット)サイズ:M22
ピッチ:2.5mm、有効径:20.376、谷径:19.294mm

ホイール固定時におけるボルトとホイールの歪

 ボルトとナットの摩擦係数を$0.2$と仮定し、①式を用いて摩擦角$ρ$を求めると、$ρ=\arctanμ=\arctan0.2=11.31°$、

(補足)
 ボルトやナットの材料である鋼(Fe)の摩擦係数は、被膜や汚れなどが全くない新生面同士であれば、微視レベルで溶着が生じており、結果として$μ=0.55$程度の値となる。しかし、実際にボルトやナットが使用される環境においては、双方の表面には酸化被膜や汚れあるいは分子レベルの油などが付着しているのが普通であり、ここではボルト、ナット間の摩擦係数$μ=0.2$と仮定した。

 ネジのリード角$β$は、 $β=\arctan\dfrac{l}{πd_2}=\arctan\dfrac{2.5}{π×19.29}=\arctan0.0413=2.36°$

 メーカー推奨の締付けトルクが$600Nm$であるとして、 (4)を用いて 締付けトルク$T$とホイールナットのホイール圧縮力$Q$との関係式から$Q$を求めれば、

$Q=\dfrac{T(Nm)}{r(m)}÷\tan(β+ρ)=600(Nm)÷\dfrac{20.376}{2×10^3}(m)÷tan13.67°$  

$=1.43×10^4N=1.46×10^3kgf$ ・・・(11)

これより、10個のナットで固定するホイールであれば、1ホイールあたり、$14.3×10^4N(14.6×10^3kgf)の力でハブに固定されていることになる。

次に上記$Q$の力でホイールを固定したときホイールボルトに生じる伸び$δ$を求めてみよう。

弾性学の基本法則であるフックの法則によれば物体の伸び$δ$は次の式で表される。

$δ=\dfrac{Ql}{AE}$ ・・・(12)

 ここで$Q$は物体に作用する軸力、$l$はホイールの板厚、$A$は軸力を受ける物体の面積、$E$は物体の弾性係数である。鋼の弾性係数$E$は、$E=2.1×10^6 kgf/cm^2=2.06×10^7 N/cm$、ホイールの板厚$l=1.3cm$ボルト谷径の断面積$A$は、$A=π×(\dfrac{1.9294}{2})^2 cm^2=2.92cm^2$である。これらを(12)式に代入してボルトの伸び$δ$を求めれば、

$δ= 1.43×10^4(N)×1.3(cm)÷2.92(cm^2)÷(2.06×10^7)(N/cm^2)$

$ =3.09÷10^4(cm)=3.09μm$ ・・・(13)

 ボルトの歪$ε$は$δ$を変形部の長さ$l$で割ればよいから

$ε=\dfrac{3.09÷10^4(cm)}{1.3(cm)}=2.37÷10^4 $ ・・・(13′)

このときホイールのナットによる締付部が(11)の圧縮力によって縮む量$δ_w$を求めれば、接触面積がナット対辺距離$33mm$と同じ直径の円として、$A_w=π×(1.65^2-1.1^2) (cm^2) =4.74(cm^2)$を(12)式の$A$に代入すれば、$Q、l、E$は同じであるから、

$δ_w= 1.43×10^4(N)×1.3(cm)÷4.74(cm^2)÷(2.06×10^7)(N/cm)$

$=1.903÷10^4=1.90μm$ ・・・(14)

ホイールの歪$ε_w$は$δ_w$を変形部の長さ$l$で割ればよいから、

$ε_w= \dfrac{1.90÷10^4(cm)}{1.3(cm)}=1.46 ÷10^4 $ ・・・ (14′)

この結果を図6に対応させれば、ボルトの歪(13′)が図の$OE$であり、ホイールの歪が図の$EC$であり、荷重$Q$が図の$ED$である。

カーブ走行時にナットに作用する力

 車が右折するときを考えよう(図9)。図で後輪の回転半径$R2$が$5m$とする。車の右折時の角速度$ω$を、車が3秒でカーブ(角度 $\dfrac{π}{4}rad$ )を曲がり切るとして$ω=\dfrac{π}{12}=0.262(rad/s)$とする。タイヤの質量を$m_w=90kg$とすれば、カーブ時にタイヤに作用する車軸方向外向きの力$F$は $F=m_w×R2×ω^2$で表されるから 、

$F=m_w×R2×ω^2=90(kg)×5(m)×0.262^2(/s^2)=30.9kgm/s^2=30.9N$ ・・・(15)

これを10個のハブボルトとナットで受けるわけであるから、1個のハブボルトとナットにかかる車軸方向の力$F_n$はその$\dfrac{1}{10}$であり、

$F_n=3.09N=0.314kgf$  ・・・(16)

となる。これは(11)式で示したメーカー推奨の締付けトルクでホイールに与えた力に比べ桁違いに小さい力であり、ホイールがハブに規定トルクで固定されていれば、タイヤの脱輪に車のカーブ走行自体が原因になるとは考えにくい。図10は車の車軸部分の構成模式図である。


図9.車の右折
図10.車軸のハブとホイール模式図

使用データ

 上記で用いたデータの一部を以下に記載する。

ホイールの種類 ISO/10穴

規定の締付けトルク
57~67(560~660) :kgf・m(N・m)

使用箇所:新ISO方式ホイールのフロント左右輪・リヤ左右輪(右ネジ)
■サイズ(対辺):33mm
■ネジ径:M22
■ピッチ:P1.5
■適合メーカー:いすゞ・三菱ふそう・日野・UDトラック
■高さ:27mm
■座金(ワッシャー)外径:48.5mm
■入数:1袋5個
■品番:SSA100-3R

まとめ

 以上、1ホイールに10本のM22ネジのボルトとナットで固定される質量90kgのタイヤに関して検討したが、車の加減速によってナットにかかるトルク、カーブ走行時ホイールボルトにかかる引張力により生ずるホイール締付力の低下量のいずれも、規定の締付トルクや締付力に比べ遥かに小さい値であり、メーカー指定の締付けトルクでナットを締付け、定期的な増締めを行っていれば車輪が脱落することは考え難い。

 ただし、上記はボルト、ナット間の摩擦係数を$μ=0.2$と仮定した場合、すなわち摩擦角$ρ=11.31°$の場合の検討結果である。したがって、ホイールナットの座面やボルト・ナット間のネジ面に潤滑油が介在した場合には、(5)式の摩擦角$ρ$が小さくなりナットは緩みやすくなる。

補足

 ここで(5)式を用いて、摩擦角$ρ$がホイールボルト(ナット)のリード角$β=2.36°$と等しくなるときの摩擦係数$μ_l$を求めてみよう。

$μ_l=tan2.36°=0.041$ ・・・(17)

 すなわちホイールボルトがピッチ$1.5mm$、$M22$ネジの場合、ボルト・ナット間の摩擦係数が$0.041$になるとナットはトルクを加えなくても自然に緩むことがわかる。したがって、ホイールナットがホイールと接触する面や、ホイールナットとホイールボルトのネジ面にはオイルなどの潤滑剤が介在することは極めて危険である。
 摩擦係数は潤滑剤の有無だけでなく、表面粗さによっても異なるため、仕上げ面の滑らかな高級なボルト・ナットの組合せほど潤滑剤の存在が危険となる。

(備考)
 粗い切削面どうしの摩擦の場合、油膜が存在しても摩擦係数は0.1以下になり難いが、研磨面同士の摩擦の場合、油膜が存在すれば摩擦係数0.04以下は現実的に起こりうる。

  ホイールナットがホイールと接触する面や、ホイールナットとホイールボルトのネジ面にはオイルなどの潤滑剤が介在しない場合、規定トルクで固定され、定期的に増し締めされた車輪の脱落はまず起こらないと考えられる。
 それ以外に車輪脱落の原因となる可能性のあるものを敢えて挙げれば、、車の過酷な使用がある。悪路走行や車同士の衝突などにより予想外の衝撃荷重がホイール周辺に加わることも原因の一つと考えられないこともない。

結 論

 タイヤ取付時や交換時に正しい手順でナットを締め、メーカー推奨のトルクで ホイールを固定し、さらに定期的に増締めを行えば、走行中の脱輪はまず起こらないと考えられる。右ねじ左ねじの違いなども問題ないと考えられる。
 ただし、ナットとホイールの接触面やボルトとナットのネジ面には潤滑剤や潤滑膜が介在しないよう注意して作業することが必要条件となる。

 
 

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