スポンサーリンク
Contents
高層天気図の重要性
高層天気図とは高層を流れる大気の状態を把握するためのものであり、高層における大気の状態を立体的に捉えることにより、様々な気象現象の予報の確度を高めることができる。例えば、集中豪雨や雷雨などの激しい気象現象、低気圧や台風の発生や発達などを判断したり、気圧の谷や峰、ジェット気流の把握には高層の大気の流れを知ることが必要である。図1は大気の流れを立体的に示したものである。

高層大気の特徴
高層の大気は、地表面や海面から摩擦力を受けたり、熱の影響を受けたりする下層大気と異なり、変化が少なく分析がしやすい。その結果は長期予報を含め地表の天気予報に役立てられている。
高層天気図利用の具体例
具体例の一つとして降雪予報があり、日本海側の平地で雪を降らせる目安は、上空1500m付近の気温が「-6℃以下」と言われており、 大雪になる目安の気温は、上空5,500m付近の気温が「-36℃以下」と言われている。

高層天気図の種類
地上天気図が等高度天気図であるのに対し、 高層天気図は等圧面が各地点でとる高度で表すため、天気図内に等高度線が引かれている。高層天気図で用いられる等圧面天気図には、850hPa等圧面天気図(地上約1500m)、700hPa等圧面天気図(地上約3000m)、500hPa等圧面天気図(地上約5500m)、300hPa等圧面天気図(地上約9000m)、100hPa等圧面天気図(地上約16.000m)がある。
等圧面天気図
地球大気も気体であり、気体におけるボイル・シャルルの法則(次式)が成り立つ。
pv=RT ・・・①
①でpは圧力(hPa)、vは容積(m3/kg)、Rは気体定数(gas constant)、Tは絶対温度(K)を表している。なお、m3はmの3乗(立方メートル)である。
等圧面の高度の緯度依存性
地球大気の温度は低緯度側が高く高緯度側が低いため、等圧力面に関して言えば、低緯度側の高度が高く高緯度側の高度が低くなる。これを示したのが図3で、高度の高い(圧力の低い)等圧面ほど緯度変化による高度変化が大きくなっている。逆に等高度で見れば、高層に行くほど気圧傾度(緯度変化における気圧変化)が大きくなり、気圧傾度力(pressure gradient force:気圧差によって空気塊に生ずる力)も大きくなる。その結果、気圧傾度力によって生ずる地衡風(geostrophic wind)も高層に行くほど速くなる。
地球大気は地球が自転しているため、運動する空気塊にはコリオリの力が働いている。北半球では空気塊は移動方向(風の方向)に直角な右向きのコリオリ力を受ける。高層では地面や海面などからの摩擦力の影響を受けず、コリオリ力と気圧傾度力が釣り合うわけであり、風は高圧部を右に見て等圧線に平行に吹く。

地衡風
地衡風の風速Vは次の式で求められる。
V=(1/(2ρωsinφ))・dp/dn ・・・②
ここでρは空気塊密度(kg/m3)、ωは地球自転の角速度(ラジアン/sec)、φは緯度、dpは等高面上の2点間の気圧差(hPa)、dnは等高線上の2点間の距離(m)を表している。
等圧面による地衡風式では、
V=(g/(2ωsinφ))・dp/dn ・・・③
ここでgは重力加速度(m/s2)、 ωは地球自転の角速度(ラジアン/sec)、φは緯度、dpは等圧面上の2点間の高度差(m)、dnは等圧面上の2点間の距離(m)を表している。
②式と③式の比較から、等圧面を用いた方が空気塊の密度ρを用いなくても良い点から等圧面解析の方が便利なことがわかる。
地表面付近における摩擦の影響
地表面付近では空気塊が移動する(風が吹く)とき、地表面や海面からの摩擦が働くため地衡風は等圧線に平行に吹くことができず、等圧線に平行な方向から角度αをなす向きに吹く。角度αは摩擦力の大きさによって異なる。これを示したのが図4である。

図5は地表面における、高気圧と高気圧から吹き出す風、低気圧と低気圧に吹き込む風の様子を示したものである。高気圧からは右向きの回転をした風が吹き出し、低気圧には左向きの回転をした風が吹き込んでいるが、いずれも高圧側を右にして風が吹いているのがわかる。

各等圧面天気図から読み取るデータ
850hPa等圧面天気図(地上約1500m)
図6は850hPa等圧面図であり、図中には実線で高度が、破線で気温が、黒点で多湿域が示されている。850hPa面は地上約1,500mの気象を示すもので、下層雲の分布に対応している。寒気や暖気あるいは水蒸気の流入状態を知るのによい。具体的には次のような用い方をする。

①水蒸気の分布や風の状態から、集中豪雨の発生しやすい気象状態を判断するのに使われる。集中豪雨は図の多湿域を目安にする。
②湿舌発生の目安は暖候期に南寄りの風で風速15m/s以上の帯状地域に注目する。
③6~9月中に露点温度が16℃以上あると、多湿域内では大雨を降らせるのに十分な水蒸気がある。そして、850hPa面の風速が20m/s以上の下層ジェット流の北~北西側で豪雨が発生しやすい。
④850hPaの下層ジェット流と500hPaの上層ジェット流との交点付近で集中豪雨が発生しやすい。
⑤寒気と暖気の流入状態から地上の気温予想の目安に利用する。海上では-15℃以下の寒気内で船体着氷が発生し、-18℃以下になると急速に進む。
700hPa等圧面天気図(地上約3000m)
700hPa面は地上約3,000mの気象を示すもので、中層雲の分布に対応しており、水蒸気の流入状態から降水現象を予測するのによい。具体的には次のような用い方をする。
①集中豪雨が発生しているときは、中国大陸の揚子江付近から東に伸びる湿舌や、太平洋高気圧の縁辺に沿って南~北東へ伸びる湿舌が見られる。
②地上天気図の低気圧と700hPa面の気圧の谷が対応していれば、低気圧は背が高く強い。
③地上天気図の高気圧と700hPa面の気圧の峰が対応していれば、高気圧は背が高く強い。
④700hPa面の風向が地上の寒冷前線と平行なときは前線は強い。寒冷前線の通過後、南西風が北西風に変わるまで悪天が続く。
⑤低気圧の発生期に、 700hPa面天気図にも低気圧的な流れがあると、低気圧は発達する。
⑥地上の低気圧は700hPa面の等高線に沿って進み、 700hPa面の風速の70%の速さで進む。
500hPa等圧面天気図(地上約5500m)
図7は500hPa等圧面天気図で図中には実線で高度が、破線で気温が示されている。 高層天気図でもっともよく使われるもので、地上約5,500mに相当し、閉じた等高線は少なくなり、ほとんどが波形の模様となる。風は北から南へと波打ちながら流れることから偏西風波動という。500hPa面の気圧の谷は1日に経度10°くらいの速さで進む。 500hPa面天気図は具体的には次のような用い方をする。

①等高線の南北への振幅が大きくなり、気圧の谷が深まりつつあるとき、あるいは深い気圧の谷が接近しているようなとき低気圧は発達する。
②等高線が気圧の峰の部分よりも谷の方で混んでいる場合は低気圧は発達する。
③気圧の峰よりも谷の方で等高線が広くなる場合は低気圧は発達しにくい。
④地上天気図の低気圧と500hPaの気圧の谷とに距離が小さいとき、あるいは低気圧が谷の真下や谷の後方にあるときは低気圧は発達しない。
⑤500hPaの気圧の谷の前方(東方)緯度5°分の距離に地上の低気圧があると低気圧は発達する。
⑥地上の低気圧と500hPa面の気圧の谷の間を通る等温線の間隔が周りに比べて狭いと低気圧は発達する。
⑦気圧の谷の北西側に強い寒気があると低気圧は発達する。
300hPa等圧面天気図(地上約9000m)
図8は300hPa等圧面天気図で図中には実線で高度が、破線で気温が示されている。 300hPa面は地上約9,000mの高度に相当するので対流圏の上部・圏界面の下部に相当する。風の強い高度であり、偏西風の概要を把握し、ジェット気流を解析するのに用いられる。ジェット気流は長さが数千km、幅が数百km、上下の厚さが数kmの規模である。ジェット気流の中心の風速は最低値が30m/s、最高風速が125m/s以上にもなり、普通は50~75m/sくらいである。また、冬に強く、夏はその3分の1くらいに弱くなる。日本付近に存在する亜熱帯ジェット気流は、寒候期30°N付近、暖候期は40°N付近にあり、盛夏にはしばしば消滅する。

ジェット気流と寒帯前線は一体となって動くので、ジェット気流が南北に動けば、寒帯前線も南北に動く。すなわち、ジェット気流の位置は低気圧や前線活動の活発な場所を示している。ジェット気流と天気の一般的法則を以下に示す。
①ジェット気流の強いときは、前線や低気圧の活動が活発で天気が悪い。
②低気圧の発生初期では低気圧の北の方にジェット気流があり、低気圧が発達するにつれ低気圧の中心の真上に来る。低気圧が衰弱期に入ると閉塞点の真上にジェット気流がある。
③寒冷期にはジェット気流がヒマラヤ山脈の南を通り日本の南岸の上空を吹いている。季節が進むにつれて北上し、梅雨になるとヒマラヤ山脈で2つに別れたジェット気流が日本列島を挟むような状態で流れている。この2つの流れの(2つの流れに挟まれた場所にできる) 淀みがオホーツク海でオホーツク海高気圧を作っていると考えられている。そして、ジェット気流がさらに北上すると梅雨があける。
④暖候期にはジェット気流はヒマラヤ山脈の北側を流れ、40°N付近の上空を吹いている。
参考文献
小倉義光著 「一般気象学」 東京大学出版会
福地章著 「高層気象とFAX図の知識」 成山堂書店
コメント
コメントはありません。