短大時代の同窓生である愛子、正子、節子、知子、信子の5人は、卒業13年後の同窓会で顔を合わせて以来、育児のことなどで時々会って話し合いを持つようになり、皆で様々な問題について話し合ってきた。その後、久方ぶりに顔を合わせたときに、原発問題を勉強しようと言うことになり、先回まで、放射線の害、原発の構造的問題、再処理と核廃棄物の問題について話し合ってきた。今日は下呂のホテルで日帰り入浴をした後、そのロビーにある喫茶店での話合いとなった。
今回は、福島原発事故によって環境中に放出された放射性物質が、どのように拡散していくか、どこまで拡散が広がったのかについて話し合った。
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下呂の温泉で
信子「ああ良いお湯だったわ。下呂の湯はすべすべしていて肌に良いわよね。日本三名泉の一つなのよね」
知子「ここのホテルは天皇陛下も宿泊されたことがあるだけに、応対は良いし、ホテル内に温泉が三つもあるから、混雑することが無いからいいわよね」
節子「そうよね。料理も良いし、夫と年に一度位来ているのよ」
愛子「節子、一人で名古屋から運転して来たので疲れたでしょう。少しは疲れ取れたかしら」
節子「大丈夫よ。今から私は聞く方に専念するから。眠くなったら適当に寝ながら聞くことも出来るしね」
信子「そうね。今日は正子が主役で話してくれると思うし、ご主人から原発のことを聞いている愛子と知子もいることだしね。私も気楽に聴かせて貰えるわ」
知子「じゃあ本題に入りましょうか。じゃあ、今日の主役の正子お願いね」
事故で放出された放射性物質の環境中(大気中、海洋中)への拡散
愛子「原発事故で放射性物質が拡散するのは当たり前だけれど、おさえるべきポイントがどこにあるか話してよ」
正子「いいわよ。解り易く進めるために、福島原発事故を題材に進めるわね」
信子「放射性物質が拡散すると言っても、大気中への拡散と、海洋中への拡散とでは拡散の仕方が違うのでしょう」
正子「そのとおりよ。それぞれ特徴があるから、大気中への拡散から話しましょうか」
放射性物質の大気中への拡散
節子「福島原発の場合、風の影響で原発の北西側がひどく汚染されていることがマスコミで何度も報道されていたけれど、東側はあまり汚染されなかったのかしら」
知子「そんなことないわよ。遥か離れたアラスカや北米大陸まで汚染されていると言うじゃない。カルフォルニアでは福島事故の一週間後位に、福島原発のプルトニウムが観測されたと言うじゃない」
正子「さすが知子、よく知っているわね。みんなジェット気流と言うことばは知っていると思うけれど、日本上空には常に風速50mくらいの西風が吹いているの。学術用語で偏西風と言うのだけれどね」
信子「でも、事故が起きたとき、南東の風が吹いていたのでしょう」
正子「大気圏の風を考える場合、下層・中層・高層と分けて考えるのだけれど、下層の風は気圧配置、地表面や海面の温度差などの影響で常時変わるのだけれど、中層から高層に行くに従って常時西風が吹いているのよ」
愛子「それは中層や高層では気圧配置が変らないということなの?」
正子「そのとおりよ。高校の化学で習ったボイル・シャルルの法則があるでしょう」
知子「圧力が同じなら、温度が高いほど気体の体積が大きくなるというのでしょう」
正子「そうよ。上空へ行くほど、地表面や海面の温度の影響を受けにくく、極側より赤道に近付く(低緯度)ほど大気圏の気温がいつも高い状態にあるの。これは、低緯度ほど、太陽から受ける熱(光)が多いことからわかるでしょう。だから、同じ高度で見れば低緯度(赤道に近い)ほど気圧が高い状態なのよ。そして地球が東向きに自転しているため、(コリオリの力が働き)、北半球では高圧側を右に見て(南半球では高圧側を左に見て)風が吹くわけなの。だから両半球の中緯度帯の上空は常に強い偏西風がふいているの」
北米大陸まで広がる汚染
知子「それで日本の東側では、遠くアラスカや北米まで福島原発による汚染が広がっているわけね」
愛子「そのジェット気流、偏西風の下にあるわけでしょう、日本は。どれくらいのスピードで拡散するの」
正子「偏西風の早さも上空の温度勾配(緯度変化に対応する温度変化)によって変化しているのよ、速い時は風速100mくらいにまでなることがあるのだけれど、通常の50m程度の風速の場合、約一週間で地球を一周するのよ」
プルトニウムもエアロゾルに付着してアメリカまで
知子「カルフォルニアでプルトニウムが観測されたことに対して、プルトニウムは重いから遠くまで飛ばないと言う学者がいるわね」
正子「大気中には浮遊物がいっぱいあるのよ、エアロゾルと言っているのだけれど。その正体は、海水から蒸発した塩、風邪で空中に吹き上げられた細かな砂、人間が出すほこりなどなのだけれど、大きなものは直径が10ミクロン程度にもなるのよ。それに事故で吹き上げられたエアロゾルよりも小さなプルトニウムの微粉末がくっつけば、全体としての比重は小さなものであり、容易に遠くまで運ばれるわよ。黄砂を考えてみれば分るでしょう」
放射性物質の海洋への拡散
節子「かなり難しくて専門的な話になって来たわね。ここらで海洋の汚染に移りましょうよ」
愛子「大気中の放射性物質が風に乗って運ばれるなら、海洋中の放射性物質は海流によって運ばれるわけね」
正子「その通りよ。日本近海では、南から北上する暖流(黒潮)と北から南下する寒流(親潮)が、三陸沖あたりでぶつかり、東に向きを変えて太平洋を東進して(西風皮流)北米大陸西岸まで流れて行くのよ。だから福島原発で海に放出された放射性物質(大気中に放出されたものが海面に落下したものも含む)はこの海流によって北米西岸まで運ばれ、そこで緯度を下げ反転して太平洋を西進する(北赤道海流)のよ」
知子「福島原発で海に流れ出た放射性物質は、拡散しながら海流に運ばれて、太平洋全体に拡がって行くということよね」
正子「そういうことよ」
食物連鎖による海洋生物の汚染
愛子「じゃあ、放射性物質の半減期の長さや、海中に流れ出た放射性物質が魚介類の食物連鎖で濃度が高まることや、アルファ粒子で汚染されているかどうかを測定できないことを合わせて考えると、回遊魚で食物連鎖の頂点にあるマグロなど食べない方がいいということね」
知子「魚で生計を立てている人もいるから、あまり大っぴらには言えないけれど、私達の子孫に健康な体を残して行くという視点からは食べないに越したことはないわね」
信子「それよりも事故が起きれば地球規模で環境を汚染する原発を無くして行くことが大切よね」
若狭湾の原発群が事故を起こせば、関西圏、中京圏に影響
正子「偏西風の補足だけれど、若狭湾に関電の原発群があるでしょう」
節子「若狭湾は原発銀座よね」
正子「若狭湾の原発で福島級の事故が起こった場合、その東には琵琶湖があり、名古屋を含む中京圏があるでしょう」
節子「琵琶湖と言ったら、関西の人達の水がめでしょう」
正子「そうなのよ。だから若狭湾で福島のような事故が起こったら、関西圏と中京圏が駄目になってしまうのよ」
節子「大変なことじゃない。みんなの話聞いていたらとても寝るどころじゃなかったわ。私もう一度お風呂に入ってくるわね。みんなも入らない」
信子「そうしましょうよ。問題が大きすぎて私達だけでは手に負えないけれど、周囲に今回学んだことを伝えて行きましょうよ」
愛子「それがいいわね。一応今回で全テーマを話し終えたけれど、今後は新たな情報をつかんだら話し合いましょうよ」
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