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新型コロナウイルスとロシアのウクライナ侵攻がもたらす問題
2019年12月31日、中国湖北省武漢市で発生した病因不明の肺炎の報告以来、全世界に広がり猛威を奮っている新型コロナ ウイルスは未だ収束の気配を見せていない。そのような世界情勢の中、 2022年2月24日にはロシア軍がウクライナに侵攻を開始した。新型コロナウイルス対策による世界経済の停滞、ロシア侵攻による世界の穀倉地帯の破壊、ロシアに対する制裁としてのロシア産化石燃料の輸入停止などにより、世界の多くの国の食糧事情・エネルギー事情に変化が出始めている。ことに、資源に乏しい我が国では食料自給率・エネルギー自給率ともに低く、食料品の値上げやガソリン価格の値上げなど、日常生活に多くの影響が出始めている。本記事では特に日本の食料自給率について記載した。
食料安全保障の問題
1965年頃から低下した日本の食料自給率
食料自給率とは、国内で消費された食料全体のうち、国内で生産されたものが占める割合を指す指標である。例えば、食料自給率が30%ならば、国内で消費されている食料のうち、70%は輸入に頼っていることになる。日本は食料の6割以上を海外からの輸入に頼っており、世界規模の問題が生じ、海外からの輸入が困難になったとき、食料安全保障上リスクがある。日本の食料自給率は1965年73%であったが、それ以降下降を続け現在では37%にまでなっているが、未だ効果的な政策はなされていないのが実情である。
食料自給率の考え方には、熱量で換算する「カロリーベース」と金額で換算する「生産額ベース」の2種類があるが、日本ではカロリーベースで算出されている。
品目別食料自給率
2020年度の農水省のデータによれば、カロリーベースでの我が国の品目別食料自給率は次のようになる(カッコないは生産額ベース)。
●コメ…… 98%(生産額ベースでは100%)
●野菜…… 76%(生産額ベースでは90%)
●魚介類…… 51%(生産額ベースでは49%)
●果実…… 31%(生産額ベースでは65%)
●大豆…… 21%(生産額ベースでは47%)
●小麦…… 15%(生産額ベースでは19%)
●畜産物…… 16%(生産額ベースでは58%)
●油脂類…… 3%(生産額ベース47%)
これから、日本で100%自給できている食料といえばコメぐらいしかないことがわかる。
諸外国の食料自給率
諸外国の食料自給率の推移 (カロリーベース%:農水省資料より)
次の表は諸外国の食料自給率(カロリーベース)の、1965年から2018年までの推移を示したものであるが、日本以外の国が高い自給率のまま推移しているのに対し、日本は1965年に73%であった自給率は年を経るごとに低下し、2018年には37%まで落ち込んでいる。
国名 | 1965年 | 1980年 | 2000年 | 2018年 |
アメリカ | 117 | 151 | 125 | 132 |
カナダ | 152 | 156 | 161 | 266 |
ドイツ | 66 | 76 | 96 | 86 |
スペイン | 96 | 102 | 96 | 100 |
フランス | 109 | 131 | 132 | 125 |
イタリア | 88 | 80 | 73 | 60 |
オランダ | 69 | 72 | 70 | 65 |
イギリス | 45 | 94 | 74 | 65 |
オーストラリア | 199 | 212 | 280 | 200 |
日本 | 73 | 53 | 40 | 37 |

各国の穀物自給率(2018年農水省資料より)
次の表は諸外国の2018年における穀物自給率(カロリーベース)とその世界順位を示したものであるが、 オランダを除く主要諸国の自給率は日本より高く、自給率100%以上の国が多く存在する。欧州の先進国で100%以下の国でも、イギリス82%、スペイン71%、イタリア63%と、日本の28%よりはるかに高い自給率である。
国名 | 世界順位 | 自給率(%) |
ウクライナ | 4 | 245 |
オーストラリア | 5 | 239 |
カナダ | 8 | 197 |
ロシア | 11 | 184 |
フランス | 13 | 176 |
アメリカ | 22 | 128 |
ドイツ | 37 | 101 |
イギリス | 62 | 82 |
スペイン | 72 | 71 |
イタリア | 85 | 63 |
オランダ | 138 | 10 |
日本 | 128 | 28 |
食料自給率を諸外国と比較して見ても、日本の低さが際立つことがわかる。

カロリーベース自給率と生産額ベース自給率
カロリーベース自給率
カロリーベース自給率算出式
カロリーベースの自給率とは、 1人が1日に摂取したカロリーのうち、何割が国産のものだったかという数値を算出する方法で、算出式は
「カロリーベース総合食料自給率=1人1日当たり国産供給熱量÷1人1日当たり供給熱量×100 」 ・・・①
で表される。
カロリーベース自給率の問題点
カロリーベース自給率には次のような問題があると言われている。
・カロリーベース自給率では、国産の肉や乳製品であっても、飼育に使用した飼料が輸入品であれば国産供給としてカウントされない。
・実際には食べられずに廃棄された食料も分母(上記①式中の「1人1日当たり供給熱量」)に含まれるので、大量の食品ロスが発生する日本では、分母の数値が高くなり、実際よりも自給率が低く算出される。
カロリーベースによる自給率の算出は、国際標準ではなく、日本の他、韓国や台湾など、一部の国で採用されているに過ぎない。
生産額ベース自給率
生産額自給率算出式
生産額ベースの自給率の計算式は
「生産額ベース食料自給率=食料の国内生産額÷食料の国内消費額×100」 ・・・②
で表される。
この方法では、単価の高い食料であるほど自給率の数値に大きく影響することになる。主要先進国をはじめ、多くの国で生産額ベースの食料自給率が公表されているので、国際的な比較がしやすいのが特徴である。
カロリーベースよりも生産額ベースの方が自給率が高い
カロリーベースでは、1965年に73%であった食料自給率は、2020年には37%まで下がっている。生産額ベースでは1965年に86%であった食料自給率は、2020年には67.42%にまで減少している。このように、カロリーベースよりも生産額ベースの方が自給率が高くなる。
食料自給率が低下する理由
日本の食料自給率が低い理由の一つとしてカロリーベース自給率を用いていることがあるという指摘もあるが、廃棄食料に関してはその主張を是と出来る(カロリーベースの算出式は補正されるべきものである)ものの、畜産や酪農においては飼料が輸入であれば自給製品に含まれないとする考えは食料安全保障上正しいものと思われる。世界情勢が理由で飼料が輸入できなくなれば畜産や酪農が出来なくなるからである。
それ以外に、日本の食料自給率が好転しない理由として、
①高齢化により農業生産者が減少する、
②それに伴い耕作放棄地が増加する
といった、農業そのものの衰退が挙げられている。
さらに、2018年12月に発効したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)や、EUとの経済連携協定(EPA)により、参加国間での関税が撤廃され、海外産の農産物などが輸入しやすくなるため、食料自給率のさらなる低下が懸念されている。
食料安全保障の必要性
21世紀は新型コロナのような疫病の時代という説もあり、世界情勢は不安定化かつ流動化する危険があり、さらに地球規模での自然環境の変化が起こり始めている。危機管理は事が起こる前に準備しなければ意味のないものである。食糧政策はエネルギー政策と並び国の安全保障上欠かせないもの、日本の政財界は世界が新しいフェーズに入ったことを認識し、過去の技術や政策の延長といった思考に縛られず、新技術や新たな政策などを盛り込んだ未来志向で、国の根幹の改善に取り組んで貰いたいものである。
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